劇場公開日 2020年10月30日

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「『ルパンⅢ世』の原典。」大頭脳 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5『ルパンⅢ世』の原典。

2023年4月2日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

笑える

楽しい

単純

既視感満載。ゆるゆるコメディ。
 アニメの実写化が流行っているが、反対に、この実写をアニメにしたのかと思うほど。
 否、『ルパン三世』だけじゃない。
 ドリフのコント。
 ジャッキー・チェン氏の映画。
 『M.I.』も彷彿とさせる。
ネタだけだとつなぎ合わせになるだけなのだが、各役者の持ち味がたまらない。
 もちろん、ベルモンド氏やニーブン氏、ウォラック氏もいい。
 けれど、私のツボはブールビル氏。「嫌だ」と言いながら巻き込まれてしまうのだけれど、お人好し。ふんわりとした雰囲気で、言動だけを見ているとおかしいことはしていないのに、ほっこり笑わせてくれる。間が絶妙。言い方が絶妙。表情が良い。車半分になった時「置いていかないでくれよ。俺たち仲間だろ」というシーンが、本当に好きだ。「アナトール」「アルトゥール」と呼び合うのも大好き。フランスの有名なコメディアンなのだそうだ。

筋は大混戦。大金を狙う3者の筋に、妹をめぐる攻防を加えたことで、さらにおかしみが増えている。
 いくつかの国の合作。
 イギリスから、ニーブン氏を迎えているからか、オープニングのクレジットは、ベルモンド氏、ブールビル氏の次がニーブン氏なのに、一見、ニーブン氏が主役かと思ってしまう。
 ニーブン氏演じる大佐がたてた計画に、それを知らずにベルモンド氏とブールビル氏演じるアルトゥールとアナトールコンビが絡み、横取りかつ、妹をめぐる攻防で横やりを入れてくるウォラック氏演じるスキャナビエコ。途中、警察まで巻き込まれる様にもニヤニヤ。妹も、ただ華を添えるだけでなく、話の混乱のネタになっている。
 そんな破城しそうで破城しないアンサンブルが見事。異質なコメディアンたちを使うと、お互いの持ち味が消えてしまうことも多いが、この映画ではうまく調和されている。尤も、だから、ぶっ飛んでるような演出はなく、予定調和的(私的には、話がどこに行っちゃうんだという感じだったけれど)。優・良・可の評価なら、良の上かな。ABCの評価なら、A-(Aマイナス)かな。
 もちろん、ご都合主義的な部分もあるが、ご愛敬。アニメーションでの作戦説明は、斬新なのだが、今のようにPCで作成できない頃だから外注した時点で作戦漏れるでしょというツッコミもあり。水槽が破損した後は、現実的で、その様も笑える。
 そして特筆すべきが、思惑通りにならないことばかりなのに、お互いをやじるのは、兄弟けんかと、スキャナビエコのみ。勘違いの連続もあり、「ありがとう」の連発も観ていて気持ちよく、クスッと笑える。

とはいえ、ゆるゆるな展開。

そんな物語を、観光しながら、のんびり鑑賞できる。
 凱旋門からシャンゼリゼ大通りのパレード。突然、イギリスに渡り、有名な衛兵が。街中では、ヒッピー文化華やかなりし頃、マッシュルームカット後のビートルズのようなサイケなスタイルの人々が次々に映る。かと思うと、イタリアの豪邸?(『山猫』に出てきそうな豪奢なつくり)に、アメリカナイズされたようなプールの顛末。その後、またフランスに戻り、エッフェル塔に、宮殿・公園、パリのアパルトマン。フランスの田園風景。祭りのパレード。花火。自由の女神の祭典は再現か?ラストは、N.Y.の風景も現れて、ギャグで終わる。
 大佐の日常が垣間見られるのも興味深い。バトラーの立ち振る舞い。オードトワレってあのように使うんだ。洗濯場の様子が「へえ~」という感じ。内干しだったんだ。

オープニングも温故知新。今となっては斬新なデザイン。
 サイケなアニメーション。キャッチーなテーマソング。ここだけでも見る価値がある。

『大頭脳』というタイトルで、見るかどうか迷った。損しているなあと思う反面、英語そのままの『ブレイン』という題もなんだかなあと思う。鑑賞後は、”大きな脳”というのが、作中ギャグにもなっていて、このタイトルでもありかなと思ってしまう。

トリビアネタが好きな方や、ゆるゆるのコメディが好きな方、温故知新で古い映画を見直したい方にはたまらない。
 でも、スピード感あふれた派手な映画を好む人には退屈かも。
 アクションやコントネタも既視感あふれるって、この映画が原典なのだけれどね。

とみいじょん