劇場公開日 1983年12月17日

「大逆転はいまだなされていないのです」大逆転(1983) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0大逆転はいまだなされていないのです

2021年8月23日
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鑑賞方法:DVD/BD

1983年公開
ブラックマンデーはこの4年後の1987年のこと
クライマックスは在りし日のWTCが映ります
1973年竣工だそうですから、完成10周年の時です
レーガノミクスと言われたレーガン大統領の経済政策が持て囃されてちょっとしたアメリカ版のバブル時代です
レーガノミククスは結局双子の赤字と言われた財政赤字と貿易赤字を生み、それが洒落にならんぐらいに膨らみはじめるのは本作公開の翌年以降のことになります
ご存知の通りWTC はアメリカ経済の象徴として2001年にテロリストに攻撃され無残に両方のタワーとも崩壊してしまいます

競馬馬のように血筋だけで人の能力は決まるのか?
それとも人は置かれた環境によって能力を開花させるのか?
そんなことにたった1 ドルの賭けで人生を狂わされた黒人と白人の二人の物語です

前者はもちろん黒人は劣った存在であるという人種差別の考え方です
劣っているから、黒人達は下層階級の貧民なのだという考え方です
例え環境を整えても、それを活かせはしないという考えです
もちろん、エディの演じるバレンタインは整った環境で成果を出してみせます

ダン・エイクロイドの演じるハーバード出の鼻持ちならない白人青年は、社会の最下層に転落するともう這い上がれず犯罪に手を染めるしかなくなるのです

これがテーマです
舞台は主にフィラデルフィア
冒頭に映る自由の鐘はアメリカ独立宣言の採択を知らせた鐘です
同時に奴隷制の廃止、アメリカの自由と平等の象徴なのです

機会平等を忘れてはいないのか?
それを問いかけているのです
こんな事で自由の鐘に対して恥ずかしくないのか?ということなのです

お馬鹿コメディのようで高邁な理想を掲げているのです

ラストシーンは胸のすくものです
しかし映画の中のお話でしか無いのは、2021年の私達は知っています
人種的に固定化された貧富の階層構造はさほど当時と変わっていないことを私達は知っているのです
2世代近く経っているのにそうなのです

BLM 運動は、白人警官による黒人への不当な暴行から始まりました
しかしそれは単なるきっかけに過ぎないのです
この人種的な貧富の階層構造が岩盤のように強固で壊せないことへの絶望が生んだのです

かってテロリストがそびえ立つWTCを崩壊させえたのなら、この岩盤を暴力や暴動で打ち砕くこともできるのかも知れないと、そんな考えを持たせてしまう温床なのです

大逆転はいまだなされていないのです

あき240