劇場公開日 1997年12月13日

「「父親はヒマラヤで消えた」と。 「それでいい。ひどい父親は死ぬほうがいい」。」セブン・イヤーズ・イン・チベット きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「父親はヒマラヤで消えた」と。 「それでいい。ひどい父親は死ぬほうがいい」。

2021年8月9日
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鑑賞方法:DVD/BD

そんな書き出しで、長い手紙がチベットから綴られる・・

愛するロルフ
お前は私を知らず
会ってもいない
だが私の心にはいつもお前がいる
私がたどり着いたこの国
他の世界から隔離されたこの平和な国
周囲は雪を頂いた山々
夢で見る不思議な美しい国
私はそこにいる

ここチベットでは
人は自分の罪を清めるために遠い聖地へ長い旅をする
困難であればあるほど魂は清められる

私はお前の年と同じだけ遠い国々を旅して歩いた
こんな高地にも四季は訪れ 野生のロバは南を目指し 春の訪れと共に野に戻ってくる
時は止まっていてもすべては動いている
私を含めて

どこへ旅をすれば私の罪は清められるのか
悔いることがあまりにも多い

いつか旅を終える時 私たちの距離はお前が思うより近いはずだ
愛をこめて
お前の父より

⇔しかし、
悲しいかな。息子から、故国オーストリアからは「父でない人からの手紙は欲しくない」と返事が届く。

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東京2020大会が終わった晩にDVDで鑑賞。

チベットの娘がブラピに告げるのです
―(【アイガー北壁制覇】、及び
自身の【オリンピック金メダル受賞】の写真入り記事を得意げに見せるブラピに対して)―
「あなた方西洋人の文化は、あらゆる意味で頂上を極めて目立つこと、“英雄”となることを目指すが
しかし私たちたちの理想は自我を捨てること」。

澄んだ目で見つめられて
意表を突かれて言葉を見つけられないブラピの表情が、ワンカットで、しばらく映る。
風の向きが変わる。
とても良い。

この男、山に逃げ、妻と息子から棄てられ、登頂には失敗し、僅かにのこる過去の栄光=誇りの“よすが”も、この天上の国ではがらがらと音を立てて崩されてゆくようだ。

でもブラピは自慢のプライドをスッとかわされても、その事で足掻かない。自分がしがみついていた価値観とはまるで次元の違う“ワンダーランド”がそこに広がっていたからだ。

“生きた仏陀”との面会前の事前説明 Orientation には、観ている僕も口をポカーンだ。異文化を超えてそこは別世界。
あの母親役が「ダライ・ラマ14世の実の妹」と解説を読んで二度見。
だからあれは本物であって、クンドゥンへの畏怖は演技ではないってこと。
もじもじしながら二度、三度と言葉を失い、頭をくらくら揺らして目をしばたかせるブラピが、本当にいい。
向かい風に立ち向かってばかりだったブラピの人生に、柔らかい追い風がそよぎ始める。

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ダライ・ラマ本人は
数回来日しています。僕の従兄妹は会談のコーディネーターという仕事をしているので、猊下に拝謁をしたようで、
従兄妹も、チベットの異次元を体験したのだろう。つかみ所のないふわふわした、不思議な人間になっています。

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それにしても
五体投地のあの巡礼は壮絶だ・・
日本にも四国の遍路がある。
悲しみを抱えて這いずりながら、四国に、ラサに。ガンジスに、サンティアゴに。メッカにそして霊山の頂に・・救済を尋ね求むる我ら衆人の旅に、国境はないことを知る。

登山家ハインリッヒの自伝が、この映画の原作になっているようです。
若いダライ・ラマを通していつも息子の幻影を見ているハインリッヒと、その様子を察して背中をそっと押す若き聖人の描写に、僕も胸が激しく騒ぎました。鼻の奥が熱くなりました。

あなたの苦行は終わった
父親として国に帰りなさい

山で仏に会ったハインリッヒが、7年ぶりに帰国して、ようやく息子ロルフと山を登るシーンで幕です。
ひと言も喋らない二人のシルエットが見える。


ブラピの人生のザイルを岩場の上から引き上げてくれたのは、みんなの許しと優しさ。

そしてザイルを引いてブラピを悲しみの谷底から安らぎの世界へと引き上げてくれたのは、東方西国の、ヒマラヤのあの少年の笑顔だったのだと思うと、
もう一度僕は泣いてしまいました。

きりん
talismanさんのコメント
2021年8月10日

見ました!マディソン郡!

talisman
talismanさんのコメント
2021年8月9日

きりんさん、わかりました。ではもう一回、見てみます!

talisman
きりんさんのコメント
2021年8月9日

もう一度見ないともったいないですよー
つまらなかったらお金返しますから
😉✌️きりん

きりん
talismanさんのコメント
2021年8月9日

ブラピの入国禁止は解けたんですね。

ところできりんさんは「マディソン郡」も挙げてらしてました。今見ると違いますか?当時はあんまりよくわからないような気分でした。

talisman
きりんさんのコメント
2021年8月9日

ウィキペディアによるとブラピの入国禁止は解けたようです。
監督とピーターはまだかも。

きりん
talismanさんのコメント
2021年8月9日

きりんさん、こんばんは。お久しぶりです。コメントありがとうございます。再度鑑賞しなくてはダメですね。細部はチリチリ、全体をまるで忘れています。この映画のため、ブラピは中国に入国できない(今も?)ということ聞きました。

talisman
きりんさんのコメント
2021年8月9日

ダライ・ラマの半生、特に国際政治に揉みくちゃにされる彼の苦悩に焦点を当てた作品「クンドゥン」、これも観てみたくなりました。

きりん