劇場公開日 2022年6月26日

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「38歳のドヌーヴ」終電車 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.038歳のドヌーヴ

2022年7月4日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

38歳のドヌーヴ

美貌に見とれているうちに芝居が終わっていた。

トリュフォー の
「終電車」= Le Dernier Métro
いい題だ。
ぎりぎりに駆け込む終電車には人生が詰まっている。

ドイツ軍の侵攻で、フランス国土は分断されている。
生活物資も困窮する中で、ユダヤ人狩りのホロコーストをすり抜けながら劇場を切り盛りするマリオン(=ドヌーヴ)。

大勢の登場人物たちが、その実生活と劇中劇を重ねながら占領下を生きているという設定の群像劇だ。

ラブロマンスなのか、戦争映画なのか、はたまたサスペンスや文芸作品なのか?
中軸となるテーマも主演者もあいまいで、統一感がなくて、どこか散漫としているのだが、
監督としてはそこが狙い目であったようなのだ。
あの時代の庶民の生き様と、強いられた暮しのプリズムを舞台の上に再現させる取り組みだ。

地下室に隠したもうひとつの人生、
掛け持ちオーディションでいつも次なるステージを狙う女優、
女好きだがレジスタンスでもある男優、
闇市場の泥棒女、演劇に魅せられたドイツ兵、生地屋の使いの娘、レズビアンの衣装係、ユダヤヘイトの評論家、大道具係の男・・

世の中と折り合いをつけながら、妥協や迎合もしながら、空襲や停電をかいくぐってそのいっとき劇場に集まる大勢の
ステージを見つめる目の光が非常に印象的だった。

寒くて、食べ物がなくて、魂も飢(かつ)えていて、人々はそれゆえに劇場へ殺到する。
自由を手中にしたいと藻掻く庶民たちの《自分を生きる事》への渇望を、トリュフォーは撮ったと思う。

・・・・・・・・・・・・

僕たちは「終電車」には、なにがしかの思い出があるのではないかな。

電車に乗れただろうか?
それとも逃したか?
降り立ったホームから君はどこを目指したか?

大久保で終電を逃し、しばし呆然としたあとカプセルホテルに泊まったこともある。
同じ大久保で、駅のホームの向こうに見えた粗末な民家の看板「簡易ベッド1800円」に泊まったこともあった。布団の上に誰かの荷物が置いてあったがおばちゃんが「今夜その人は帰って来ないから大丈夫よ」と言っていた。
地下鉄で寝ていて目が覚めたら電車がどこかに止まっていて誰もいない車庫に入っていたことも・・

どれもこれも青春の思い出。彼女と会いたくて会いたくて、デートの帰りの「終電車」を逃した時のほろずっぱい思い出だ。

あれから数十年、
今夜の僕はどんな電車に乗って、どの辺を走っているだろうか、
どこへ行きたいと願っているのだろうか。

DVDのタイトル画とテーマの切ない調べだけで、これだけの思い出が心のホームに押し寄せてくる。

不思議な後味の映画だった。

·

きりん
きりんさんのコメント
2022年7月4日

うちの母も若い頃ストッキングを買えなくて、ふくらはぎの裏側に眉墨でシームの線を描いたと言ってました、
映画を観たあと電話で確認しました。

とにかくドヌーヴのあの足ね
トリュフォーの足フェチは確定ですな。
40年代の時代設定ですが撮影は80年代です。

きりん