劇場公開日 1985年12月14日

「超高齢化が進展して遂に人口減に突入した21世紀の日本にとって、今こそ求められている映画です」コクーン あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0超高齢化が進展して遂に人口減に突入した21世紀の日本にとって、今こそ求められている映画です

2019年7月18日
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鑑賞方法:DVD/BD

SFは思考の制約をとりさって、私達に思索の幅を広げ高い視座を与えてくれます
より物事の全体像を知り、その本質に迫る事ができるのです
固定観念を取り去り自由に思索の大空を駆け巡ることをもたらしてくれる思考の翼です
本作は正にこのことを教えてくれました

老人達と異星人とのコンタクトの物語の体裁を取りながら、テーマとしているのは、老いとは何か、死とは何か、生きるとは何か?です

このようなテーマは一歩間違えば、宗教臭に満ちた説教になるか、青臭い独りよがりな意見の開陳になりがちです
そこをSFの設定が思考のエフェクターとなり、私達を楽しみながら、実はそのテーマをより深く真正面から考えられるように仕向けてくれるのです

フロリダの老人ホームの日常がまず語られます
三人の男の老人達はまるで、スタンドバイミーに出てくる子供達のようです
何もすることもなく時間はありまってどう遊んで暇を潰すのかで頭が一杯です
子供と同じく老人を責める人は少なく多少の事は目をつぶるだろうという具合で小さな冒険に挑戦できるのです

子供達と違うのは残された時間がもう少ないことです
日に日に体力も視力も認知力も低下しているのを本人達は自覚しています
老人ホームでは死は日常的なものです
三人の内の一人はガンを宣告されます
だからこそ、いまできる内にやりたいことを全てやるのです
子供の時や、現役の時には、今出来なくても大きくなったらできる、そのうちやろうと考える、そのような贅沢なことは最早許されないことなのです

残された日々を充実した楽しい日々でどう過ごすのか?
最早できることの制約は多くそのなかで何をするのか?

テレビを視るだけの生活?
老人達とゲームをして遊ぶ毎日?
孫と遊ぶ?
大学に通う人
美術館や図書館に通う人
趣味に打ち込む人
高齢でも仕事を続ける人もいます
人それぞれの価値観があります

映画の中で美しい日暮れのシーンが何度か登場します
人生の美しい夕焼けを作れるかどうかは、本人次第なのです
その人にとり充実した美しい人生の夕暮れ時にするかは、仲良し老人三人組のように本能少しの冒険が必要なのかも知れません

クライマックスの前にアートが孫に語る言葉は遺言そのものです
永遠の生命を得たと言っても残された人々には死んだ事と同じです
愛する老妻をなくした男にとって永遠の生命とは何でしょう?
永遠に妻を忘れることが出来きず、永遠に苦しめられる地獄なのではないでしょうか?
ジョーは銀行口座を解約して貴重な老後資金の全てを街中に文字通りばらまいて退路を絶ってから、アルマを一緒に行こうと決意を持って誘います
彼もまた共に人生を歩んだ伴侶と最後の日々を過ごせ無いなら、永遠の生命が合っても無意味だと考えていたのです

悔いなく残された日々を過ごす
それは老人達だけでなく、若い人にこそ必要なことです
やっておけばよかった
何故しなかったのか
そんな後悔は老人になったらもはや遅すぎるのです
コクーンのプールにそんな思いを浸けてみても生き返りはしないのです
ウォルターがバーニーに言ったように、もう遅すぎる、出来ることは何もないのです

これだけの思いが、本作を観ている最中に沸き上がります

ラストシーンは、いじめを受けてアートのところに逃げて来ていた孫が笑顔を取り戻すところで終わります
次の世代、その次の世代にも監督の目線は届いています

役者の演技も素晴らしいです
アート役のドン・アメチーはアカデミー賞助演男優賞を獲得しています
アルマ役はあのジェシカ・タンディです
ニューヨーク東8番街の奇跡はもしかしたら本作の彼女の熱演により製作され配役されたのかも知れません

名作と言って良いでしょう
特撮も素晴らしいものです
これもまたアカデミー賞視覚効果賞を獲っています
異星人のビジュアルも優れており、天使の暗喩と異星人を上手く融合させています

コクーンは聖杯や聖遺物からの連想を呼ぶ存在です

超高齢化が進展して遂に人口減に突入した21世紀の日本にとって、今こそ求められている映画ではないでしょうか?
日本でのリメイクが観たいと切に思います

あき240