劇場公開日 1973年1月13日

「観る者を徹底的に煽る映画。」激突! Garuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0観る者を徹底的に煽る映画。

2022年2月3日
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鑑賞方法:TV地上波

 小学生の頃、テレビで初めて観たスピルバーグ監督作品がこれだった。 彼が手掛けた傑作は色々観てきたが、この作品の面白さを越えるものはなかった。 個人的には、最もスピルバーグの才能が発揮された最高傑作だと思う。

 舞台は、アメリカの荒涼とした砂漠地帯。 セールスマンの運転する普通車が、大型のタンクローリーを追い抜いた。 これが因縁の発露となり、悪夢のようなカーチェイスが始まる。

 いわゆる、煽り運転だが、 このタンクローリーの運転手のしつこさは、完全に常軌を逸している。 一方、この気の毒なセールスマンは、なんとか相手の気持ちを理解して、穏便に自体が収拾できないものかと必死に考える。

 しかし、肝心の運転手は、顔も姿も見せようとしない。 ハッキリしているのは、強烈な殺意だけ。どんな人間なのかが想像が出来ない不気味さが、いよいよ観る者の不安を煽る。

 もはや逃げ道はないのかー。

 スピルバーグの情報遮断が巧なのである。 主人公の心理状態の演出や伏線の敷き方、カット割、アクションの魅せ方も見事としかいいようがない。 これを、結構な低予算と短期間で完成させたというのだから、やはり彼は、映画作りの天才である。

 最後は、 追い詰められたセールスマンが意を決し、タンクローリーとの絶望的な戦いに入っていくのだが、 この段階ではもう、 タンクローリー自体が邪悪な意志を持った化け物にしか見えなくなっている。
観客は、 極限まで追い詰められた主人公の心に同期したまま、 最後の最後まで不安と恐怖に煽られ続けることになる。

 テレビでは、何度となく再放送されているが、何度見ても面白い。 観終わった後は、まるで自分自身がタンクローリーに追われ続けたように、ヘトヘトに疲れ果て、 しばらく呆然自失となるほどの完成度だ。

 ちなみに、主演のデニス・ウィーバーは、 当時日本でテレビ放映されていた「刑事マクロード」で主役を務めていたアメリカンヒーローだった。 ところがこの映画では、 タンクローリーの異常な煽り運転から逃げまわることしか出来ない弱々しい中年男。 子供心に、そのギャップが悔しくもあり、痛々しくもあったのを覚えている。

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Garu