劇場公開日 2020年8月14日

「超強力な反戦映画」禁じられた遊び(1952) garuさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0超強力な反戦映画

2022年1月30日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

 まだ年端もいかない少女ポーレットが、 機銃掃射で人を殺しながら爆音を響かせて飛び交う爆撃機の下を、子犬を追いかけて走る。 その光景が、実際に見てしまったかのように焼き付いてしまった。 若い頃に一度観た名作だが、歳をとってから見ると、かなり精神的にキツイ。 ラストシーンの後は、なんともやりきれない気持ちが残ってしまった。

 ポーレットにとっては、戦争も、両親の死も、十字架遊びも、きっと大差はない。 何を優先すべきかといった判断力もない。 彼女はまだ、快が不快かを他人に伝えることぐらいしかできない幼児なのだ。 そんな幼い彼女が、戦時下の無常な状況変化に翻弄される。 そして最後は、「ママー、ミッシェル」と泣きながら、雑踏の中へと姿を消していくー。

 この映画の凄さは、幼い子供のいたいけな姿を見事にフィルムに再現していることに尽きる。 ただそこだけだと言ってもいい。 誰も他人を助ける余裕がなく、物資はおろか、人の優しさまでもが極端に不足した戦時下で、状況になんとか反応する力しかない幼児が、両親を亡くしてたったひとりきりで泣いているのだ。 映画の中の物語とはいえ、この状況を見て心穏やかでいられる人はいないだろう。

 どの国でも実際の戦時下では、孤児になったり一人で死んでいった幼児など数えきれないほどいたはずだ。 当時は、手を差し伸べられなくても仕方がないで済まされた。 というか、済ますしかなかったのだろう。 しかし、少なくとも平和な現在では、いや、平和でなくとも、もう絶対に許されないのだ。 幼い子供の心に重い痛みを負わせることも、一人きりにさせることも、絶対に許されない。

 禁じられた遊びとは、戦争のことを言っているのではないかと思う。 制作者たちの戦争に対する激しい怒りが封じ込められた、超強力な反戦映画である。

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Garu