劇場公開日 2020年8月2日

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「騙され続けたお人好しの女性カビリアが辿り着いた微笑みの境地」カビリアの夜 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5騙され続けたお人好しの女性カビリアが辿り着いた微笑みの境地

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

名画「道」と同じく1957年に本邦初公開されたフェデリコ・フェリーニ監督の初期の代表作だが、「道」に比べてあまり話題になることがない。”ジェルソミーナ”の女性像とはまた違ったジュリエッタ・マシーナが演じた”カビリア”という女性の可愛らしさや無垢さが素晴らしいだけに、もっと注目されるべき名作と思う。但し、今日的な男女平等の概念とは社会背景を異にする時代の違いは大きい。特に女性から見て、何度も男に騙され続ける愚かな娼婦カビリアに共感することは難しいのではと危惧する。あくまでも、この時代の女性の哀れさの表現として優れているフェデリコ・フェリーニ監督とジュリエッタ・マシーナの演出と演技を観るべき女性映画であり、その純度の高さを素直に評価したい。
その意味で、この映画のクライマックスである、カビリアが仲間たちと訪れる宗教行事の場面が素晴らしい。元々参加することに関心が無かったカビリアなのだが、遊び感覚半分ピクニック気分半分の仲間たちとは対照的に、真剣な眼差しで神に縋る姿は感動的ですらある。自分が意図していない状況に遭遇した時の、心と体のバランスが崩れたときの戸惑い、その一気に心に偏った時の人間の弱さ。フェリーニが求め描いたものは、弱い人間のありのままの姿であり、心の動揺であり、それに対して正直であることの人間としての美しさである。その弱い自分を認めたカビリアは、ラスト何とも言えない微笑みを浮かべながらスクリーンに消えていく。ここには、今の時代にも必要なメッセージがあるのではないだろうか。「道」のラストシーンは、男の悔恨と懺悔の悲痛さで終わったが、この映画のラストシーンは、男の罪を認めて尚前を向いて生きようとする女性の強さを讃えているように思われる。
  2000年 1月29日

Gustav