劇場公開日 1980年10月25日

「ブレッソンの名作「スリ」をなぞったシュレイダー監督のアメリカ版」アメリカン・ジゴロ Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5ブレッソンの名作「スリ」をなぞったシュレイダー監督のアメリカ版

2022年6月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

洗練されたマナーと超一流のファッションに鍛え抜かれた肉体を飾る男は、上流階級の婦人との関係で報酬を得る男娼である。その為に5ヵ国語の会話力と知性を身に付けている。こんな職業の男性がロサンゼルスに多くいるのかどうかは別にして、この題材をアメリカ映画で制作したことが興味深い。イギリス出身のジョン・スレシンジャーがアカデミー賞を受けた「真夜中のカーボーイ」のジョン・ヴォイトが演じたカウボーイ・ジョーとは雲泥の差である。「タクシードライバー」の脚本で一躍脚光を浴びたポール・シュレイダー監督は、一匹狼的な男のエネルギー発散を描くのが好きなようで、この映画も誰一人理解者を持たない孤立した主人公の足掻きを後半の主題にしている。これはフランスのロベール・ブレッソンの「スリ」にとても似ている。特に、窮地に追い込まれた主人公を救うのが彼を理解し愛する一人の女性であり、これが物語の帰結になるところなどそっくりだ。孤独な男を救えるのは、ひとりの女性である。このシンプルな物語を、今の華やかで豊かな生活を送るアメリカの都会を舞台に描きたかったのだろう。
「スリ」の主人公の部屋が虚無的に殺風景であったのに対して、ジゴロ・ジュリアン(フランス風の名前だ)が定宿とするホテルの自室は、高級マンションの一室といった豪華さである。前者は、違法行為の技術を磨くことで生き甲斐を感じている無神論者であるが、ジュリアンも肉体を鍛え維持し、女性に奉仕することに生き甲斐を感じている。この違いを比較しながら観ている分には楽しめたが、シュレイダーの演出に傑出したものが無く、作為だけが目立った。奇抜な設定でも、ファッションやライフスタイルを贅沢にみせる映画らしさがあり、音楽も感覚的にいいけれど、肝心のドラマが弱い。主演のリチャード・ギアとローレン・ハットンも特に悪くはないのにと、残念な気持ちになってしまった。

  1980年 10月29日  ニュー東宝シネマ1

Gustav