劇場公開日 2015年10月17日

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「パリの空の下」愛と哀しみのボレロ ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0パリの空の下

2024年3月9日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

「なぜ人間は同じことを繰り返すのだろう?なぜ運命はいつも同じ装いをしているのだろう?」

午前十時の映画祭13の大トリとして鑑賞。観たのは12年ぶりで、スクリーンでは初鑑賞。モスクワ、ニューヨーク、ベルリン、そしてパリ。セルゲイ・ヌレエフ、グレン・ミラー、ヘルベルト・フォン・カラヤン、エディット・ピアフをモチーフに、 1930年代〜1980年代にわたり数奇な運命に翻弄された4家族の物語が同時進行する。
有史以来、人類は数多くの音楽を生み出してきた。その中でもとりわけ奇妙な存在感を放つのがモーリス・ラヴェル「ボレロ」である。同じリズムを保ちながら2種類の旋律を繰り返し、その間徐々に楽器が加わっていく。その様子は音楽というよりは呪術と表現した方がふさわしい。この曲を根底に置きながら、本作では4つの家族の物語が展開され、パリを交差点としてクロスオーバーするのである。メインキャストは親子2役兼任という、曲に負けず劣らず特異な映画と言っていい。
ただ、その性質上難しい立場に置かれた作品かもしれない。本来この手の作品は「考える」よりも「没頭する」ことを求められるが、本作はクロスオーバーで物語が進行するため、頭の中で状況を切り替えながら観なければならない。よって考えることに神経を割かれてしまい没頭しにくい一面がある。複数回観た方が恐らく整理はしやすい。緻密過ぎて観る側の整理がなかなか難しい。
とはいえフランスが底力を示したような出来で、監督クロード・ルルーシュ、音楽フランシス・レイ&ミシェル・ルグランというまさにフランス映画界最高戦力を惜しげもなくぶっ込んだ本作。音楽映画にも関わらず劇中ではT-34/85戦車やクレマンソー級空母が当たり前のように登場し、一体製作費にいくら注ぎ込んだのか気になってしまった。キャストでいうとアンヌ役のニコール・ガルシアの飾らない美しさに魅せられた。
人生には2,3の物語しかない。しかしそれは何度も繰り返される。そしてその度にまるで初めてであるかのような劇的さを伴う。そういえばラヴェル「ボレロ」は、指揮者にとっては「手腕を問われる曲」らしい。音というものは、楽器が重なり厚みが増すと同じテンポでも遅く聴こえるため、指揮者はテンポを維持するために演奏中徐々にテンポを上げる必要があるのだそうだ。人生も恐らくそうで、同じことの繰り返しの中で少しずつ生きるスピードを上げていく必要があるのだろう。そこにその人の手腕が問われるのが人生らしい。
今日もパリの空の下セーヌは流れ、日々の営みの中で新しい物語が紡がれる。
あゝマロニエに 歌を口ずさみ…

ストレンジラヴ