劇場公開日 1953年10月7日

「本作と「原爆の子」を続けて観るべきです そして広島サミット」ひろしま あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本作と「原爆の子」を続けて観るべきです そして広島サミット

2023年6月6日
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鑑賞方法:VOD

1953年10月公開
原作は1951年に刊行された「原爆の子〜広島の少年少女のうったえ」という作文集です
編纂したのは広島大の学長の長田新(おさだあらた)
原爆投下時は広大の教授として被爆し重傷を負った人物

1952年4月、日本は独立を回復しました
GHQの検閲による原爆についての表現のタブーが解けたことをうけて、早速同年8月6日この作文集を原作にして「原爆の子」という映画が公開されます
監督、脚本は新藤兼人
まだ3作目ながら新進気鋭と評価がその当時から高い監督でした
その後、名監督として世界に名前が轟ろいていくのはご存知の通り
素晴らしい作品です

しかしこの映画に当初協力姿勢を示していた日教組はこの映画の製作の方向性について強い不満を示し、自ら製作者となって別個に映画化行うと、「原爆の子」公開と同じ同年8月に決定しました
それが本作です

製作費は「原爆の子」の300万に対して、2400万と8倍に及びました

映画の素人の日教組に代わって製作指揮を執ったのは製作者として名前を連ねる伊藤武郎らによるものでしょう
東宝の労働争議で東宝から追放された人物で、製作スタッフもそうした人々を中心に人選したようです

監督は関川秀雄
1950年の「日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声」を公開したばかり
これは戦後初の反戦映画と言われ今日でも有名です

助監督のなかに後に大監督となる熊井啓の名前があります

撮影は中尾駿一郎
この人は1951年の今井正監督の「また逢う日まで」の撮影で日本映画技術賞を受賞したばかり
大層腕の立つカメラマンです

音楽はゴジラで有名になる伊福部昭
本作を観れば、本作の1年後の1954年公開のゴジラは本作の影響を強烈に受けている作品だとハッキリとわかります
本作が追求している原爆への憎悪が形を成したものであると

「原爆の子」と「ひろしま」の映画化の方向性の違いとは何でしょうか?
その方向性の違いとは何からきたものだったのでしょうか?

本作の目指したもの
それは被爆の真実です
どのような地獄絵図であったのか
その迫真さ追求することです
「原爆の子」にはそのようなシーンは皆無なのです

両方の作品を続けて観るべきです
そう強くお勧めします

ご自分の目で観て、自分自身がどう感じたのか、自身の頭で考えてみることが大事だと思います

有名な評論家、有名な先生がどう書いていたからとかは関係ありません
あなた自身がどう考えるかです

本作が原爆の真実を知る衝撃をあなたに与えるのは間違いありません
広島の平和資料館を初めて見た衝撃と同等以上のものです
私達が資料館でみたことは本当はこういうことだったのだと教えてくれるのです
迫真の映像です

必ず観るべき映画です
しかし、本作をおすすめできない部分もまたあるのです
本作はそれほどの強烈な印象を持つが故に盲目的に洗脳される危険があるからです

確かに原爆を投下したのは米国です
それはどこまでも非難されなければなりません
とはいえ戦争なのですから、もし日本が先に原爆を製造していたら日本が先に原爆を米国の都市に対して間違いなく使っていたでしょう
ドイツもしかりです

しかし、本作にはことさらに米国への憎悪だけを煽りたてようという製作態度が明白にあります
ドイツには原爆を投下せずに日本に投下したのは有色人差別によるものだとかの主張などはそれです
つまり米国を強く憎み、平和勢力であるソ連や中国の陣営に日本は参加して平和を追求すべきだと言う主張が水面下にあるのがわかります
朝鮮戦争を巡る終盤の物語はそれです

しかし朝鮮戦争はウクライナ戦争のロシアのように一方的に北朝鮮が侵攻してきたものでした
そしてソ連は、すでに1949年に原爆実験をしていたのです
中国は1964年の東京オリンピックの最中に初の原爆実験を行っているのです
結局のところ東西冷戦の中のプロパガンダとして本作は利用されたのです

本作のように原爆を投下した米国への憎悪だけを煽ることは、結局憎悪が憎悪を呼び、際限もなくエスカレーションして、ついには、またも原爆が日本に投下されるまで行き着くことでしょう

平和を望んで原爆そのものを憎悪するために作られた映画がそのようなことになって良いものでしょうか?

本作「原爆の子」と「ひろしま」は同じ原作の表裏一体の作品です
二つで一つと言って良いかも知れません
片方だけでは不足なのです

2023年5月、G7 広島サミットが開催されました
戦争中のウクライナからゼレンスキー大統領も駆けつけたことで歴史に刻まれたサミットになりました

世界の首脳の方々が平和資料館を見学をされ、平和公園の原爆慰霊碑に献花黙祷をなされました

広島の被爆は、日本だけの話ではなく、世界の話になったのです

21世紀に公然と核恫喝を行う国があります
かって平和勢力と名乗っていた国々です

そういったことを俯瞰してご自分の頭で本作を観て感じるべきです

本作の被爆シーンの迫真さは、どれだけ特撮やCGが発達しても超えられない真実の記憶を映像にしたものです
永遠に残され、語り継がれるべきものです
しかし憎悪はそうであってはならないのです
憎みをぶつけ合うことは再び原爆投下へ至る道なのです

原爆の過ちを反省して、繰り返さないこと

それを広島サミットで世界の首脳達が悟り誓って各国にお戻りになられたとそう信じたいのです

2023年6月、広島サミットの後に本作を観なおしてから、改めて原爆ドーム、平和記念公園、平和資料館を訪れてそう思いました

本作と「原爆の子」を観たなら「二十四時間の情事」も併せてご覧になられるべきとお勧め致します

あき240