「ワンピース映画の最高傑作」ONE PIECE ワンピース THE MOVIE デッドエンドの冒険 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ワンピース映画の最高傑作

2022年6月5日
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ワンピース映画というと『STRONG WORLD』から連なる本編補完的な大作シリーズばかりが持て囃されがちではあるけれど、個人的には本作が一番面白いと思う。

大冒険の裏でいくつもの人間関係やサスペンスが胎動し、それらがルフィと怨敵の最後の大一番において一挙にカタルシスを迎えるという原作のダイナミズムを余すことなく映像に落とし込めていた。しかもこれでオリジナル脚本なのだから驚く。

オリジナルキャラクターであるシュライヤの服装が『死亡遊戯』のブルース・リーそのものすぎて笑った。戦闘スタイルは言うまでもなくジャッキー・チェンの軽快なカンフーアクションが範型だし。イスを使ったりチェーンをよじ登ったりと、とにかくものすごい作画コストがかかっていた。ただ、そういったスタイルが彼のパーソナリティのどこに生かされているのかは最後までよくわからなかった。

本作もそれまでのワンピース映画と同じように仲間の重要さや命のかけがえのなさなどが説かれるのだが、以前までのような子供騙しの単純な勧善懲悪劇とは一味違う。

ルフィは上述のようなヒューマニズム(仲間・命を大切にしろ!)を開陳しはするものの、そこには適度な余地がある。言い換えれば教条性がない。ルフィは仲間や命の大切さを説く一方で人を殴るし暴言を吐く。要するに自分のやりたいようにやっているだけなのだ。

だからこそルフィの説くヒューマニズムには妙な真正さがある。こいつはルールとか法律とかいった厳密で厳格な審級に基づいてそういうことを言ってるんじゃなくて、本当にそう思ってるから言ってるんだな、という納得がある。

しかしルフィの「やりたいようにやる」という自由奔放さは、時として悪しき方向に舵を切ることもある。本作のラスボスであるガスパーデは邪悪なやり方で「やりたいようにやる」を実践し続けてきた、ある意味でルフィの鏡像的な人物だ。ルフィの「自由主義」を手放しに全肯定しない脚本のバランス感覚は見事なものだ。

しかもガスパーデはそれまでの歴代ラスボスの負の側面を煮詰めたような男だ。クロコダイルのような能力(アメアメの実)、アーロンのような狡猾さ(か弱い老爺に労働を強いる)、そして首領クリークのような卑劣さ。それらがガスパーデという束と化してルフィを襲撃する。あと麦わら帽子を破くところなんかはバギーそのものだったな。

本作ではルフィ以外の船員にさしたる戦闘シーンがない。しかしルフィとガスパーデの一騎打ちをつぶさに見ていくと、そこには船員たちの手助けの痕跡がちらほらと窺える。ガスパーデを倒すことができたのも、どう考えたってサンジのおかげだ。

ルフィはアーロンパーク編で「おれは助けてもらわねえと生きていけねえ自信がある」と言ったが、まさにこの「仲間がいることに対する意識の有無」こそが同じ「自由主義」者のルフィとガスパーデを大きく分かつ。ルフィは基本的に自分のやりたいようにやるけれど、その根底には少しだけ他者への考慮がある。そのアンバランスさがルフィのいいところですよねやっぱり。

因果