劇場公開日 1977年12月17日

「スター・ウォーズという黒船来航で、日本の特撮の文明開花がここから始まったのかも知れません」惑星大戦争 THE WAR IN SPACE あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0スター・ウォーズという黒船来航で、日本の特撮の文明開花がここから始まったのかも知れません

2021年2月8日
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鑑賞方法:DVD/BD

もう、嫌な思い出しかない
トラウマレベル
黒歴史
そのような映画のひとつでした

だから観るのは本当に久方ぶりでした
メチャクチャに、それこそ糞味噌にけなす事になると思っていました

するとどうだろう?
案外にマシだったのです

確かに素晴らしいとか、海外に誇れるとかそんなものではありません
でもゴジラ対メガロのような、論評にも値しないような空疎なものではなかったということです
そこまで酷くは無かったのです

東宝特撮の系譜に連なる正統なSF作品だったということに気づかされたのです

東宝特撮は、大きく分けて三つあります
ひとつは怪獣映画、二つ目は怪人映画、三つ目はSF映画

本作はもちろんこの東宝特撮のSF映画の系譜に直線で繋がっている正統なる後継作品なのです

1957年、地球防衛軍
1959年、宇宙大戦争
1962年、妖星ゴラス
1969年、緯度0大作戦
1977年、惑星大戦争(本作)

世界観、雰囲気、役者、表現手法すべて継承されています
本作だけが劣るとか、飛び抜けて悪いとかいうことはなく、過去からの伝統、流れといったものが総て直線として延長された先にある作品なのです

1977年に東宝特撮がSFものを撮ったならば、当然このような作品になるのは間違いないのです

だから、本作をけなしては駄目なのです
当時の日本の特撮レベルはこうであったという現実を直視しなければならないのです
その現実の制約の中で当時の特撮部隊は懸命に自分たちのやれるベストを作品にしたのです
それが今回分かりました

1977年5月米国で「スター・ウォーズ」公開
空前の大ヒットになります
同年11月米国で「未知との遭遇」公開
これもまた大ヒット
どちらも日本では翌年1978年の公開になります
少し日本公開まで間があいたのは、上映館を出来るだけ多くすることと、公開時期を春休みや夏休みに合わせることで動員を最大限に増やす為と思われます
またグッズ展開の時間を稼ぐ意味もこの頃にはそろそろあったように思います
日本でも同年8月「劇場版宇宙戦艦ヤマト」が、誰も予想しないような空前の大ヒットしました
当時東急渋谷駅の辺りにあった東急文化会館の地下の東急レックスから、行列が建物からはみ出て、宮益坂の上の方まで伸びていた光景は忘れもしません
つまり史上空前のSFブームが世界中に巻き起こったのです!

この状況を受けて、1977年の秋には日本の映画会社も宇宙SF映画の製作を2社が決定します
東宝は「惑星大戦争」(本作)を1977年12月公開で
東映は「宇宙からのメッセージ」1978年4月公開で
両者とも本命のスター・ウォーズ公開前に、出来るだけ稼ごうと大急ぎで企画して撮影したことがよく分かります

テレビ番組でも東映は1978年4月から「スターウルフ」を放映しています
これは原作がエドモンド・ハミルトンの由緒正しいスペースオペラです

ちなみにその他の映画会社はどうだったかというと
松竹は寅さんと黄色いハンカチでお腹一杯、ギララでもう懲り懲りなのかSF映画には参戦せず
角川は人間の証明、野生の証明でお腹一杯で参戦せず
という状況です

大映はすでに倒産しており、この時点ではそれどころではありませんでした
しかし1980年に、二周りほど回周遅れで「宇宙怪獣ガメラ」を徳間傘下で公開します
ガメラの映画ですがスター・ウォーズのスターデストロイヤーのそのまんまの宇宙戦艦を登場させています

当時のことですから、スター・ウォーズを日本公開前に観るのはなかなか大変だったと思います
断片的に伝わってくる映画内容、スチール写真、予告編といったものしか無いのです
そんな中で本作はバタバタで企画し撮影されたのです

幕末の頃のように、黒船を初めて見て腰を抜かして見よう見真似で似たようなものを作る
そんな感じでしょう

だから今まで作ってきたようにしか作れないのです
だから海底軍艦、マイティジヤック、地球防衛軍のアルファ号、ベータ号、緯度ゼロ大作戦のアルファー号、宇宙戦艦ヤマトなどがかき混ぜられているのです

特撮自体はセンスも技術も
古いものの、近代化は少しづつ進んでいることは感じられます

特撮の文明開花だったのです
洋装化した幕末の新政府軍みたいな感じです
まだちょんまげしてる案配です

それでも本作こそは、平成ゴジラ、ミレニアムゴジラへ続く、特撮の文明開花の出発点であるのかも知れません
特撮の尊皇攘夷なんか土台無理なのです

蛇足

ラストのドリルのミサイルは、ヤマトのドリルミサイルそのもの、轟天号の制服や艦橋セットも同様にヤマト由来なのは明らかです

それ以外に今回改めて気づいたことを以下列記します

宇宙帽の形状が2001年宇宙の旅のものとソックリであること
しかもオレンジ色!

轟天号の後部噴射口のケーシングの形状が六角形で、これも2001年宇宙の旅のディスカバリー号に影響されていること

艦載機のスペースファイターの射出機構がリボルバー式でした
宇宙戦艦ヤマト2199のコスモタイガーの射出機構もリボルバー式であり、その由来は本作ではなかったのかという驚きがありました

何もかも否定されるような映画では決してありません

あき240