劇場公開日 1982年12月18日

「せめて心は、贅沢に」汚れた英雄(1982) ダックス奮闘{ふんとう}さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0せめて心は、贅沢に

2011年5月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

興奮

幸せ

「笑う警官」などの作品で知られる角川春樹監督が、草刈正雄を主演に迎えて描く、本格ハードボイルド映画。

なんとも、現代は「節」辛い・・おっと失礼、世知辛い世の中である。そんなお茶目なミスもしてしまうほどに、「節」約、「節」電、「節」水・・何かと同じ漢字が目に飛び込んでくる。もちろん、「節」時代は当然の流れであり、否定する内容ではない。しかし、こう義務のように強制され続けると、心まで削り取られるようで寂しい心持がしないでもない。

そんな時代にあって、この作品は大いに歓迎すべき物語であろう。室内に水をどばどば溜め込んだプールを作って、シャンパン片手に物思い。かと思えば、実際に100万本はあろうかというバラを愛する女性に贈り、心を奪い取る。暖炉にワインを捨て、特大ベッドで恋人と煙草の煙に溺れる。

お風呂の水量をちまちまと調節して、安物ワイン片手に家計簿作り。かと思えば、格安牛丼店で愛する女性に「ちょっとは金かけなさいよ!」と叱られ、心は萎える。100円洗剤を愛おしく使い、もらい物ベッドシートが何やら臭い。そんな生活に満足している一般人としては、本作の世界は正真正銘、異次元世界である。

超絶なる男のダンディズムを具現化する主人公。派手なブランド物を着飾り、それでも顔が見劣りしない木の実ナナ。異国の香り漂う英語が飛び交い、「僕は泥棒だ。君の心を盗んでしまうから・・」と平気でのたまう草刈様。これは草刈正雄が語るから格好良いのであり、出川哲朗に言われても怒りしか浮かんでこない。なるほど、全てが完璧な贅沢空間である。

沈黙をもって描かれるバイクレースシーンも心が躍る大迫力。「削って、削って」がもてはやされる現代社会。せめて本作のような文句なしの「湯水の如く金じゃばじゃば」映画に触れて、心だけは贅沢に、豊かに過ごしたいと思う今日この頃である。いや・・草刈様、本当に素敵です。

ダックス奮闘{ふんとう}