劇場公開日 1979年6月16日

「五社版“必殺仕掛人”は期待させるも…」闇の狩人 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

2.5五社版“必殺仕掛人”は期待させるも…

2023年5月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

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五社英雄監督1979年の作品。

徳川十代将軍下の江戸。首席老中が悪政を奮う。
配下の悪徳老中は、殺しを請け負う稼業“闇の狩人”を使い、暗殺を実行させていた。
その元締めはある時、記憶を失った凄腕の浪人を雇い入れ…。

『雲霧仁左衛門』に続く、五社監督×原作・池波正太郎×主演・仲代達矢のトリオ作。
殺しを請け負う稼業の刺客たちが題材なだけあって、同じ池波原作の『仕掛人』を思わせる。
豪華キャスト。常連組に加え、千葉真一、岸恵子、いしだあゆみ、藤田まことら。中でも実質主役の記憶喪失の浪人・原田芳雄がインパクト。
彼らが織り成す人間ドラマ、ダイナミックなアクションとバイオレンスとエロチズム。
こちらも五社印たっぷりの大衆娯楽時代劇巨編。

…と期待して見た『雲霧仁左衛門』が微妙だっただけに、こちらもちょっと期待値低めにして見たのだが、それはある意味正解。
闇の殺しの稼業はあちらのような作品を期待させるが、あちらのような痛快スカッと感はナシ。
暗躍、思惑…重厚に蠢く男たち女たちの人間模様で、五社作品らしいと言えばそうだが、それが面白さに直結しない。
脚本家も『雲霧仁左衛門』と同じ。『雲霧仁左衛門』の出来が不満だった原作者が脚本家交代を意向したが、脚本家が別名で担当。それがまた仇となったのか、作品トーンは同じ。老中たちの陰謀、殺しの稼業の世界で生きる者、記憶を失った浪人の素性…一応それらは描かれているのに、またまた展開はもたつき、面白味や醍醐味が伝わってこない。

池波原作はもっと勧善懲悪で、殺し屋稼業のプロフェッショナル。
五社アレンジは、非情な世界で生きるアウトローたちの末路。
同原作でも全く非なる解釈。
この後五社監督は池波小説は元より、大衆娯楽時代劇はいったん離れ、十八番になる愛憎文芸作に手腕を発揮する事になる。

近大