劇場公開日 1951年9月14日

「武蔵野は緑なりき、メロドラマが目に染みる」武蔵野夫人 ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0武蔵野は緑なりき、メロドラマが目に染みる

2020年4月24日
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鑑賞方法:映画館

早稲田松竹で「山椒大夫」と二本立てで上映があり、田中絹代と溝口健二コンビの作品なので、おまけと思い鑑賞。

冒頭の広大な田んぼの一本道を、センターにした画面を1組の夫婦が、こちらに向かってくる。

遥か遠景の風景は、空襲に燃える東京の街。
このカットで引き込まれる。

戦果を逃れて武蔵野の妻の実家に疎開して来た夫婦の田中絹代と森雅之。

森雅之の大学教授は、スタンダールを翻訳するインテリだか、戦争にまるで興味なく戦死を小馬鹿に嘲笑うゲス。
妻に対しても冷淡なのに嫉妬深い。そして女好き。本性を知っている妻の親からは、嫌われている。

そこに学徒出陣で捕虜になっていた従兄弟の青年が、帰還することで愛憎のメロドラマが始まる。

学徒出陣して捕虜になって敗戦の3年後に帰還した従兄弟は、田中絹代の夫人に恋愛感情を持っていて、旦那を嫌っている設定。

面白いのはこの従兄弟。
南方のビルマで捕虜になって3年後に帰国したのに、戦争のトラウマなどが無く、すぐ大学に行って、音楽喫茶に入り浸り、同棲や女遊びを普通にしている。

しかも英語に堪能で、クラッシックやジャズにも造詣があり、故郷である武蔵野の大地を愛してるなどあまり屈折がない人。

原作者の大岡昇平の経歴が、大学教授と従兄弟の二人を合わせたものなので、ひょっとすると自伝的な要素あるのか?と思う。
本人も晩年までアンテナの鋭い若い感性のある人だったから。
そういえば、南方戦のおぞましさを描いた戦記小説「野火」の作者と考えると映画には、戦争への追及が殆ど無いな。

見所は、とにかくメロドラマな展開で、従兄弟とハイキング出かけて、嵐に遭遇して二人きりで宿に泊まるなどのベタな展開。

そしてやな旦那に耐える田中絹代が、更に手酷い裏切りを受けるところなども、メロドラマ。

役者では、旦那と浮気する近所裕福の奥さん役の轟夕起子のバンプな肉感的存在がいい。特にプルプルの二の腕。

配役を見ると塩沢ときの名前もあるが、あの眼鏡美人かな?まさか・・

事程左様に、批評的にもあまり評価されていない、おまけに思っていた作品が結構面白くて、興味深く観てしまった次第。

ミラーズ