劇場公開日 1977年11月19日

「宮川一夫のカラー撮影の美しさが傑出した女優映画」はなれ瞽女おりん Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5宮川一夫のカラー撮影の美しさが傑出した女優映画

2021年7月9日
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鑑賞方法:映画館

まず驚いたのは、宮川一夫のカラー撮影が余りにも素晴らしいことであった。白黒映画の代表作が名高いが、カラー映像の宮川一夫で感銘をうけたのは、個人的に吉村公三郎監督の「夜の河」以来である。日本海の荒波を始め、四季折々の北国の自然が見事に映像化されている。盲目の旅芸人おりんの主人公の設定により、一層観客にとってありがたい日本の美が提供されていた。彼女が視覚以外の五感に全集中を傾けて観る者に伝える、生きることの真摯さや美しさが、この映画を理解するうえで最も重要だ。完全ではない人間が完璧を求める手探りの生き様が、生きることの本質を教えてくれる。このおりんを理解し神聖な愛情を、ついには自滅的に証明してしまう男、同時に社会の悪と不正を批判する立場にまわる人間、この立場が主人公と観客の中間に位置する。彼は脱走兵であり、逃れるためにおりんと旅を続け、尽くす男になり彼女を支える。このふたりの刹那的愛は、宮川一夫の映像美と同化して少しも嫌味を感じさせない。
ところが、この美しすぎる映像の魅力が勝り、およそ作品の責任者たる篠田監督の力量が迫ってこないのだ。突然現れる見たことのない日本の自然美に驚嘆し感動し、息を止める程なのに、物語の流れに生かされていない。現在進行の場面より、過去の”ごぜ”さんたちの生活描写が素晴らしかった。最後は、日本の軍国主義を批判する目新しさのない演出含め、篠田監督の人柄の良さが顕著になる。人間的に優しい監督と判断する。演技では、主演の岩下志麻の熱演とおかみ役の奈良岡朋子の自然な役作りが素晴らしかった。それと登場シーンは短いが、樹木希林の”ごぜ”演技が作品を救っている。上手すぎて遣り過ぎと見られるかも知れないが、ギリギリのところで抑えている。この作品は、撮影と女優の演技をみる映画である。

  1978年 2月4日  郡山東宝

Gustav