劇場公開日 1959年10月25日

「「大和から急げば1日」のどこに活火山が…?」日本誕生 シン・ダイマジンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「大和から急げば1日」のどこに活火山が…?

2022年3月24日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ゴジラのDVDシリーズの方で見ました。東宝映画1000本記念だそうで、スター総出演の凄い映画です。コミカルなシーンにはエノケンが出ていたり、腕力の強い神様役で力士の朝汐(初代)が出ていたりしますし、アマテラスは原節子です。でも、ここでは伊福部昭の音楽についてだけ書くことにします。
この映画は古代日本を描いていますが、例えば、ヤマトタケルが熊襲征伐に向かう前、男たちと武士の舞を舞うシーンがあります。ここで歌われているのは、古事記にある「久米歌」そのものです。もちろん古代のメロディーはわからないので、音楽は伊福部が雅楽風に想像したものですが、ほかにも古事記歌謡を引用しているらしいところがあり、伊福部がまじめに研究していることが窺われます。
また、熊襲が宴会を開いているシーンでは、中国風の歌と踊りが演奏されます。恐らく、九州は中国大陸との文化交流が進んでいると想像したのでしょう。また、東国出征の中で、相模国での宴会シーンでは、驚くべきことにアイヌ民謡の音楽と踊りが引用されているようです(特徴的な1拍子のリズムの踊りです)。これは、古代東国の文化を、のちの北方民族のそれに近いものと構想したのだと思います。
伊福部は古代日本の音楽を考えるに当たり、東アジア全体の音楽の中で位置づけようとしていることになるんですね。これは大きな構想で、すごいと思いました。なお、東国出征に疑問を持ったヤマトタケルが引き返すことを決意し、兵士たちが喜んで望郷の歌を歌うシーン、古事記・日本書紀の「大和は 国のまほろば…」が歌われていますが、雅楽風というより和歌披講の節のようなメロディーで、これを大和土着の音楽と考えているのではないかと思いました。以上、マニアックな感想ですみません。
天の岩戸の前の狂騒のシーン、乙羽信子のダンスがユニークで素晴らしいですが、ここで伊福部が書いている音楽はみごとです。これは北野武監督の「座頭市」フィナーレのタップダンスと並んで、日本映画を代表するダンスシーンだと思いました。
特撮としては最後の大噴火のシーンが素晴らしいですが、でも、この場所は「急げば大和まで1日で着く」はずのところのはずなんです。いったいどこにそんな火山が…?

シン・ダイマジン