劇場公開日 1954年9月14日

「仰げば尊し」二十四の瞳(1954) Kjさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5仰げば尊し

2023年8月19日
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子供時分に反戦色の強い推薦図書として触れた記憶はあるが、改めて観て、こんな映画だったのかと感じるところが多い。反戦などは時代背景にしか過ぎない。いかなる時代においても通底する生きる不条理と尊さを描いている。
歌をめざすマスノに対する親の言い分に対して、立場をわきまえた上で搾り出す最大限の弁。安っぽい熱血やカタルシスはなく、純然たるひとりの人間の真摯な姿がある。一方では恵まれぬ家庭環境に妥協を受け入れるしかない生徒もいる。無情な結末。先生などと言われても、どのようにして正解を示すことができようか。社会に疑問を呈すれば逆風を受け、教え子が風潮に侵されゆくのを防ぐこともできず、最後は受け入れ難き結果の前に無力に打ちひしがれる。夫も奪われ、余裕も失う中起きる悲劇。青い柿をもいだ子を責めず弔う姿に涙しかない。
人生を嘆き憂いて泣き虫先生となっても、目の前に新しい子供を任せられれば、また向き合い始める。この世がいかに暗くても、光もまたあることを心の中に留めておけば、前に進むこともできる。

Kj