劇場公開日 1961年10月29日

「別れる決心」妻は告白する 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5別れる決心

2023年6月11日
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パク・チャヌク『別れる決心』のリファレンス元として本作が挙げられていたのをちらほらと見かけていたが、ギミックといいそこに展開されるドラマの顛末といい思った以上に『別れる決心』だった。

本作も『別れる決心』も男が女の心情をうまく見定められないがゆえに悲劇が起きてしまうというものだ。『別れる決心』では主人公の刑事が50年代ノワール映画的なファム・ファタール幻想を終ぞ捨てきれず、殺人容疑者の女を自死に至らしめてしまう。一方本作では主人公の青年が相手の女に過度な潔白さを求め、「人を殺すような人間に人を愛すことはできない」ともっともらしい正論を並べ立てる。文字通り命を賭けた愛情表現を冷たく退けられた女は自ら命を絶ってしまう。

人間を一つの端的なイズムに還元することは不可能だ。人間はそこまで単純じゃない。女をファム・ファタール幻想や潔癖主義に押し込めてしまうというのも、結局のところは神聖視という名のミソジニーである。この無意識の蔑視が招来する悲劇を巧みな脚本と演出で描き出したのが『別れる決心』だが、まさかその半世紀以上前に同じような映画が既に存在していたとは…

ただまあ作品の1/3ほどを占める法廷劇のシーンは口頭で述べられたシチュエーションが映像によって淡々と追認されるだけなので正直やや退屈気味。増村保造の映画にしては映像にあまり華がないように感じた。

因果