劇場公開日 1993年11月6日

「自分の立ち位置次第で、月はいずれの方向にもみえるのだ」月はどっちに出ている あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自分の立ち位置次第で、月はいずれの方向にもみえるのだ

2020年5月25日
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鑑賞方法:DVD/BD

序盤、パブのママとフィリピン人の女の子達がタクシーから降りたのは歌舞伎町のランドマークである巨大雑居ビル風林会館の前の花屋のところ
30年近く経っていても雑多な光景は今も大して変わってない
一目であそこだと分かった

風林会館の何階だったか多国籍パブに行ったことを思いだした
ロシア人、スペイン人、中国人、マレーシア人・・・
スペイン人の女の子の話を鮮明に覚えている

見た目は完全に高身長でグラマーな白人女性
恐ろしく高い鼻、真っ青な瞳、白い肌、突き出た胸、張り出した腰骨、長い脚
だけど完璧な日本語で日本人のような自然な受け答えをする
聞くと両親はどちらもスペイン人だが、自分が生まれた時から日本に住んでいて、幼稚園も小学校も区立で、日本人の女の子達と一緒に遊んで育ったという
風呂にはいって沢庵でお茶漬け食べて日本に生まれて良かった~と普通に思うという

だからこの見た目は着ぐるみだと思って下さい
中身は普通の日本人の女性ですと

在日の人々の物語
それは南北朝鮮の人々だけでなく、コニーのような出稼ぎのフィリピン人もいれば、ベトナム人の人々もいる、イラン人も沢山いた
ポルトガル語しか話せない日系ブラジル人もいた

コニーを忠男のタクシーが拾ったのは新大久保の駅のガードの下
今ではコリアンタウンとして超有名になった
この頃もコリアンタウンの色彩はあったが、もっと多国籍でエクアドル人の立ちんぼが出没すると話題になっていた
劇中でもそれらしい二人が登場する

1993年、バブル崩壊がいよいよ深刻化してきた頃
日本の繁栄はピークアウトしたのだ

眩しい程の繁栄が覆い隠していた水面下の物事それらが一斉に噴出し始めた頃
こうした多国籍化した日本が見えてきた頃の物語だ

今は日常風景となった
東京だけでもなく、北関東の工場や倉庫の街の話でもなく、日本の地方都市どこでも見られる事になった
月は夕闇が訪れて輝き始めるのだ

月はどっちにでている
自分の立ち位置次第で、月はいずれの方向にもみえるのだ
在日問題、移民問題も同じだ

日本人の差別意識にだけ?そうじゃない
在日側の被差別意識も同じなのだ

日本人を激しくヘイトする人々
歴史問題を真偽が怪しいと明白になった物事を何時までも千年も恨む人々
日本人と融和している人々、そうしようと努力する人々、様々だ

東京タワーが何度か写る
青い夜空にオレンジ色の照明に輝く東京タワーと黄色い満月の美しさ
タワーは東京の繁栄を、月は在日をシンボルしているのだ

ラストシーンは塩尻から帰り、首都高の浜崎ジャンクションの手前辺りから見える東京タワーの遠景だ
コニーも忠男もやっと東京に帰ってきたという安堵の心が映像に滲み出ている
二人にとっても東京は故郷になっているのだ
素晴らしい演出だ

月は太陽の照り返しで輝く
日本が没落すれば月もまた輝きを失うのだろう
理解しあえたらいい、できなくても力を合わせて日本で住み続けて行くほかないのだ

もし忠男とコニーが結婚したなら、2020年の今、その子供はもう成人して20代半ばだろう
そしてまたこの二人のように恋愛をして結婚して子供を産むのだろう
この日本のどこかで

公開から30年近く経って、本作の持つメッセージはより明確に見えるようになったのではないだろうか?

傑作なのは間違い無い

あき240