劇場公開日 1983年5月21日

「これからも二度とこのようなものは作れない、それほどの作品です」細雪 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5これからも二度とこのようなものは作れない、それほどの作品です

2019年9月15日
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鑑賞方法:DVD/BD

よくぞ市川崑監督が映画化して下さったものです
これこそ東宝50周年記念映画として製作する意義があったと言えます

四姉妹の女優陣の美貌、立ち振舞い
婿養子二人の男性陣の名演
この時代の真の豊かさを示す着物の圧倒的な絢爛豪華さ
着物に目を奪われてしまいますがそれだけでなく二人の婿養子が着るスーツの見事さ、当時のシルエット、ディテール、生地の風合いの再現度合いにも驚嘆しました
当時の京都、上本町、芦屋、箕面を再現する美術
上本町の本家のお屋敷は内部だけでなく一瞬映る外観と表の通りも含めてこれだ、そのものだ、と特に感激しました
そして俳優陣の話す正しい本当の大阪弁の船場言葉の正確さ

どれもこれもこんな物凄いレベルで作ることは現代では残念ながら到底不可能だと思います
これからも二度とこのようなものは作れない、それほどの作品です
最早失われてしまったものだとはっきりわかります
1983年、辛うじて間に合ったのだと思うのです

岸惠子 51歳
佐久間良子 44歳
吉永小百合 38歳
古手川祐子 24歳

今なら岸惠子が断トツに美しいということが分かります
若い時であればこの4人全員のそれぞれの違う美しさを理解出来なかったと思います
特に岸惠子と佐久間良子の大人の女性の美しさと可愛らしさの魅力を、理解どころか正しく評価することなど到底無理だったはずだからです
この二人の美しさが分からないと、二人の婿養子の伊丹十三と石坂浩二の名演もまた理解しきれなかったと思うのです
吉永小百合と古手川祐子の若い美貌にしか目が行かず単に綺麗なおばさんだなあというぐらいだったと思います

四姉妹の女優全員が関東の人です
船場言葉の台詞は完ぺきなもので、イントネーションも方言指導の力で違和感のないものです
ですが関西出身の伊丹十三の台詞を聴くとやはりなんとなく差はあります
でもそれは些細なことです
21世紀の現代の大阪ではほぼ死滅してしまった言葉なのですから
こうして映画としてあの懐かしく美しい響きが残されているだけでもありがたいことです

陽が射すとすぐにすぐに消えてしまう細雪とは直接的にラストシーンに降る雪のことではなくて、本作で監督が表現して下さったこのような世界のことなのです

音楽だけは時代なのでしょうか、シンセサイザーの安い音で残念です

冒頭、嵐山の料理屋で長女の鶴子が少し遅れて到着した時に、新京阪がえらい遅れてなあと言います
新京阪とは今の阪急京都線のことです
中盤、雪子の見合いで神戸の高級中華料理店に向かう電車も阪急です

芦屋の雰囲気もふくめて全編に21世紀の現代にまで連綿と続く阪急文化の薫りが満ちています

正に阪急グループの東宝50周年記念に相応しい作品だと思います

芦屋の浜寄り、芦屋市立美術館の隣に谷崎潤一郎記念館があります
本作に感銘をお受けになられたなら、是非お立ち寄りください

あき240