劇場公開日 1968年11月9日

「蟲の聲を聴け」昆虫大戦争 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0蟲の聲を聴け

2021年2月16日
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鑑賞方法:VOD

悲しい

怖い

興奮

『吸血鬼ゴケミドロ』に続く、松竹特撮SF。1968年の作品。

東宝特撮は、王道娯楽。どちらかと言うと、童心に返ってワクワク。
それに対し松竹特撮は、大人向けで暗い雰囲気漂うのが売り。本作も然り。

米軍機が突如、謎の虫の大群に巻き込まれ、日本の南の島に墜落。
その米軍機は“ある物”を搭載しており、回収する為に米軍ゴードン中佐らが上陸、執拗に追う。
島の洞窟で機長らの死体と唯一の生存者が発見され、島で昆虫採集をして東京の生物研究所に送っていた青年・秋山が疑われ逮捕される。
彼の無実を晴らす為、東京から依頼主の南雲が訪ねてくる。
「虫が…虫が…虫が…!」
唯一の生存者のうわ言かと思ったが、そこにはある人物の憎み深い復讐が…。

“ある物”=水爆。冷戦時代を背景にした大国間のスパイ戦。
序盤いきなり、秋山と外国人女性が半裸で戯れるねちっこいラブシーン。しかも、不倫!
秋山と妻のラブストーリー。
外国人女性は生物学者のアナベル。ユダヤ人で、かつてナチスに凄まじい仕打ちを受け、人間不信に。全ての人間を憎む彼女によって、昆虫に猛毒や知能がもたらされ、刺された人間は発狂状態に。
小さな島を舞台に、日本人とアメリカ人の思惑が交錯。愛憎劇、濃密な人間ドラマが展開。
当時、ワ~イ、昆虫の映画だ~♪…と観に行って、青白い顔して映画館出てきた子供もいただろう。

ツッコミ所も多々。
アナベルを苦しめたのはナチスなのに、何故に日本人やアメリカ人に復讐…?
唯一の生存者は黒人兵。発狂し、日本人女性を乱暴しようとする。これ、今だったらコンプライアンス的に…。
そもそも、昆虫をあんな風に知能をもたらす事が出来るのか…?
そんな昆虫たちが意志を持って人間を襲う。
すぐ身近に実在。しかし何故か、非現実を感じた。
『吸血鬼ゴケミドロ』は傑作だったのに、決して悪くはないが、パワーダウンと言うか、ちとチープなB級感は否めない。

南雲を介して、昆虫がある言葉を喋る。
ゾッとするが、一理もある。
恐ろしいのはどちらか。愚かなのはどちらか。
蟲の聲を聴け。

一味違う松竹特撮。
現状、コロナや先日の巨大余震、そして今尚続く東日本大震災の暗い世相で無理かもしれないが、
またいずれ新しい松竹特撮を作って欲しいなぁ…。

近大