劇場公開日 1966年6月11日

「お前のお母はな、紀ノ川やな。」紀ノ川 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0お前のお母はな、紀ノ川やな。

2023年9月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

すごいな、司葉子。乙女からおばあさんまで違和感ない。しかも、当然ながら美しい。仕草もその美しさに添えるように品がある。若い岩下志麻も魅力的。この人こそ何でもできる。ここでは跳ねっかえり娘を演じているが、母との間にはしっかりと結ばれた絆がある。ドライに見えて情も深い。葬儀の場面、「ああいう悲しみかたもあるんだ」には、彼女の人としての一本の太い信念が見えた気がした。花から母娘三代、とは言うが、花の祖母の見送り姿にだって、紀ノ川の傍で生きてきた女の気骨を感じたな。当時の女性の生き方は、現代のいてはコンプライアンスにがっつりとひっかかることだろう。隷属状態の妻を見て、憤慨する人もいるだろう。だけど、この時代の母の姿はこうであった。婚家のしきたりに従うことこそ良き妻であった。まさしく「一旦、嫁したるは、身を灯明の油にして」の姿だった。それはけして服従の気持ちではなく、大家に嫁した嫁の矜持としている。それを現代では厭うであろうけど、この時代はこうであったのだ、と受け入れてほしい。
とにかく、今ではもう映像不可能な風景と、演者の佇まい。長尺も厭わず。時代を幾世代も通り過ぎ、世情や人々の様子も変わっていく。なのにわからぬ、紀ノ川の流れ、か。紀ノ川は、ここに暮らす人々にとって精神的な重心であるんだろうな。

栗太郎