劇場公開日 2007年7月28日

「心に残る名作です 大好きな作品の一つになりました」天然コケッコー あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0心に残る名作です 大好きな作品の一つになりました

2020年7月20日
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鑑賞方法:DVD/BD

心洗われるとはこの事
素晴らしい映画に出会えた幸せを感じます

本作の主人公は、もちろん夏帆が演じるそよです
でも、本当の主人公は別にいます
それは島根県の美しい田舎の光景、田舎の人々、田舎の言葉です
それを抜群に上手いカメラが丁寧に撮影しています

序盤の真夏のシーンからもう感嘆しました
あれだけの強烈な夏の日射しの中で撮影しているのに、被写体が黒つぶれせずにハッキリと明るく色彩感豊かに撮影できているのですから!

暑さ、湿気、海風の心地よさ
そういうスクリーンの向こう側の世界の肌で感じるものが映像だけで感じ取れる撮影なのです

それはやがて、秋、冬、春、また1年と季節の移り変わり毎の、温もりや、冷気や、微風がそれぞれのシーンでも展開されるのです

カメラは近藤龍人
その名前を記憶したいと思います

独特のゆったりとした田舎のテンポが、夏帆のもつナチュラルな雰囲気と渾然一体となって没入感が半端ないレベルに達してしまいます
だからこんなゆったりとした映画なのにあっという間に終わってしまいました

終盤に近づき、そよが黒板にキスして教室を出た後の薄暗い誰もいない教室をカメラがゆっくりとパンして見渡していきます
やがて白いカーテンにカメラが止まります
そのカーテンがそよいで、外の陽光の明るさ、温かかさ、心地よい薫風と共に桜の花びらが幾つか吹き込んできます
ああ終わってしまう!もっと観ていたい!と願うほどです

天然コケッコーのタイトルは原作の少女漫画のまま
映画ではエンドロールが全て終わった最後の最後にニワトリ小屋と主要登場人物が映ります

何も事件らしい事件は無いようで、郵便局の窓口で、そよの母と、大沢の母が隣合わせになり、一言二言言葉を交わす緊迫感の凄いこと!

さらにさよと母が、あっちゃんの床屋に向かう手前でのスローモーションのシーンは息を呑みます

さよの表情が一変すると同時に、さよの母の顔も一瞬そちらに向いているのです
そして次のカットでは何事もなく床屋の椅子に座っているのですから圧巻です
しかし何事も無かったように一見何の変化も起きていない母の顔に、確かに感情が吹き出ているように見えるのです
ものすごい演出力と演技力でした

心に残る名作です
大好きな作品の一つになりました

山下敦弘監督の実力や恐るべし!

このような田舎がいつまでもあるからこそ、日本は日本でいられるのだと思います
あれからもう13年
さっちゃんももう成人式を済ませているのです
あの小学校中学校はやっぱり廃校になってしまったのでしょうか?
田舎が無くなってしまったら、日本人は日本人でいられるのでしょうか?

そんな無言のメッセージが込められていたように思いました

あき240