劇場公開日 2007年6月23日

「公開年のベストムービーです」サイドカーに犬 こもねこさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5公開年のベストムービーです

2013年3月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

「自分も小さいときに、こんな素敵な人と巡り会っていたかった」と、この作品を見た人の多くが思うのではないか。それくらい、「サイドカーに犬」の竹内結子扮する主人公ヨーコは、爽やかで人を気持ちよくさせる、新鮮な空気に満ちた風のような存在だった。

 なぜそれほどにヨーコが素敵に見えるのか。それは、あらたまってヨーコが人生を語らなかったからだ。映画はとかく、登場人物に人生を語らせて、そこから人と人との触れ合いを描こうとしたがる。ところがこの作品で、ヨーコは初めて出会う女の子に、自分の過去や現在を話そうとはせず、素の自分のペースに引き込ませていくので、あけっぴろげで快活なヨーコの素顔に観客も女の子といっしょに惹かれていってしまう。人の魅力とは素顔そのものにあることに、映画を見ているこちら側があらためて気づかされたことが、この作品のポイントとなった。もっとも主人公ヨーコを、奇をてらうわけでなく、素直に演じてみせた竹内結子の醸し出す魅力を抜きにしては、こんな主人公は作り出せなかったかもしれない。
 過去の根岸監督の作品の中にも、「遠雷」のあや子や、「ウホッホ探検隊」の登起子や良子などの魅力的な女性が登場している。ただ、今回の主人公の女性のほうがより魅力的に写るのは、以前にはあった泥臭さが、根岸演出からなくなっているからだろう。根岸監督の映画を知っている者には、この演出の熟成ぶりに思わずニンマリしてしまう。
 そしてこの作品のもうひとつの魅力は、背景となった1980年代の空気だ。バブルの時代の前、着飾ることなく、正直に人と人とが触れ合っていたあの頃を、私も生きた人間で、今でもあの時代を共にした友人との親交が深いだけに、個人的なのだが、ヨーコがまったくのあかの他人には見えなかったのも、私がこの作品に大いに魅了された要因だったようにも思う。

こもねこ