恋恋風塵のレビュー・感想・評価
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大傑作
映像はどうすれば、透明で純粋な、途絶えることのないメロディを超えた「語り」を創り出せるのか。全ての答えがこの映画にあった。
カメラと人物の距離感と、ゆっくりとしたカメラワークに、監督の奥ゆかしい視線を感じた。
あるがままの風景にも、人の心にも、カメラは決してズケズケ入っていかない。何人たりとも、そこにある風景や個人の尊厳を侵害してはいけないという、自然や人間への敬意すら感じた。
トンネルの多い単線。スーッと夢の中へ導かれるように本編は始まる。
愛を自覚する前から兄妹のように育った若い二人の日常を、鑑賞者がそっと見守るように物語は進む。
たったワンシーンだけ小津安二郎ショットがある。体調を崩して寝込んでしまった彼を看病する彼女は、唯一「彼の目線」で描かれていた。彼女は新妻のように美しく、世界の全てのようだった。
ラストで、昼寝する母を横目に、爺ちゃんとサツマイモの話をする。松葉杖も手作りする爺ちゃんは、自然や精霊に働きかけながら生きている。
すると私は、まるで全ては夢だったような不思議な感覚を覚えた。人間の小さな営みと、魂で感じた愛。一体どちらが夢なのだろう。
あのとき少しは前に進んだのかな
周りばかりが大人になっていくような気がするのは、みんな同じなのかな。大人(に見える)友人も同じことを考えていたのかな。若き日の成長に憧れたり、恥ずかしいくらいの失敗をしたシーンを思い出させてくれる
忘れられないショット
ある種の良い映画には、忘れられないショットがあることがありますが、この映画には、そうした忘れられないショットが確実にあったように思います。
物語は静かです。静かですけども、でも十分な手触りをもって物語は流れていきます。そしてその手触りを直に伝えてくるのが、この映画での忘れられないショットの数々だったように思います。
ホンの表情のすべて、酒が入った時のワンの赤ら顔、ワンの祖父の佇まい、ワンの父の硬直、丸まったワンの母。
これらの一個一個を思い出すだけで、涙が出てくるような、そんな映画だったように思います。
謝文遠
高校生の頃NHKで佐藤忠男がやっていた特選アジア映画で見て以来。当時感じていたかったるさなど微塵もない。本当に全て完璧。緑、電車、駅、線路、広場、少女、おじいさん、子供、少年、制服、Tシャツ、開襟シャツ、青菜炒め、どんぶりご飯、バイク、駅の時計、親父がくれたタイメックスの腕時計。
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