劇場公開日 1989年7月29日

「美しい街並みの中の何気ない日常の描き方が秀逸」魔女の宅急便(1989) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5美しい街並みの中の何気ない日常の描き方が秀逸

2013年3月16日
PCから投稿
鑑賞方法:TV地上波

楽しい

興奮

幸せ

総合:85点
ストーリー: 80
キャスト: 85
演出: 85
ビジュアル: 85
音楽: 85

 重い主題や壮大な内容の多い宮崎映画の中で、意外なほどに小さな物語。ただの13歳の少女が魔女の修行のために家庭を出て社会生活を始めるだけ。だがそんなありきたりの日常生活の描き方がとても優れている。

 まず魔女の設定が面白い。魔女といえば怪しい魔術を使ったり悪いことをしたりという印象が強かった。でもこの作品では魔女は魔術を使うただの職業の一つであり、社会に普通に認知されている。魔女は少々特別な存在ではあるものの、決して怪しい悪魔の手先ではない。魔術が使える以外は普通の女の子、その修行の旅立ちと現実社会での生活というのは、魔女というものをすごく身近な存在にさせてくれる。時々は年齢相応に幼い態度をとる主人公キキだが、くじけそうになっても一生懸命に努力する姿に好感が持てる。
 そしてスエーデンの都市を参考にしたと言われる美しい街並みと風景は、キキでなくてもここに住みたいと思わせる。そこで繰り広げられる何気ない日常の出来事や人との触れ合いの描写が、久石譲の柔らかく軽快な音と共に描かれる。地球の危機もないし命懸けの障害もない。だがそのありふれた光景の一つ一つに、少女の新しい生活の小さな物語があるのだ。そんな描写がすごく気に入っている。
 もちろん鉄道に乗ったり自転車に乗ったり、そして言うまでもなく空を飛んだりする描き方が爽快なのは宮崎アニメの伝統の長所。

 反面、あまり気に入らなかったのが登場人物の科白の不自然さ、特に笑うところ。例えばパン屋のおソノさんやウルスラがキキとの会話の途中で突然笑い出したりするのは、自然な会話というよりも何か誇張されたわざとらしさを感じる。大学生の演劇部部員が劇の台本どおりのタイミングでわざと笑いましたというような、そんな大袈裟な雰囲気のように見えてしまう。ここがもっと自然な会話だったらもっと良かったと思います。

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Cape God