劇場公開日 2006年7月8日

「西川美和の代表作」ゆれる kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0西川美和の代表作

2021年2月15日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 すごい!兄弟の心理描写。タイトル「ゆれる」の通り、吊り橋も揺れたのかもしれないけど、オダギリジョーと香川照之のゆれる思いが見事。まるでスクリーンから客席の間の空気に心が浮かんでいるような雰囲気に包まれていました。だけど、深層心理というか彼らの真実がどこにあるのかと、掴もうとすると逃げていってしまうような・・・だけど、兄思い、弟思いという両者の熱きものが胸に突き刺さってくるような・・・絶望と希望も紙一重なんだと最後にはわかり、人を信ずることの大切さも改めて教えてくれました。

 序盤から、何気ないショットだけど凝ったカメラアングルがポイントを押さえ、事件の中心となる吊り橋現場での葛藤、目撃、濁流と緊迫感を生み出す編集効果が目に焼きついてしまう。空白となった智恵子落下シーンは最後まで彼らの記憶に閉じ込めてしまうのです。「あの瞬間、実際には何が起こったんだ」と観客をストーリーにのめり込ませ、オダギリジョーと真木よう子の関係を香川照之がどう感じているのかと疑問を投げかけてくる。裁判が始まるまでの一連の流れにどっぷりとハマると、もう西川美和監督の術中に陥ってしまう仕組みとなっていました・・・

 「吊り橋」と「ゆれる」という言葉が映画の中でも様々なことを象徴していましたが、あまりにも揺れすぎたため若干の謎も残してしまいます。問題となった現場は猛にはどんな風に写っていたのか・・・彼がカメラマンということもあって、見た目そのままと思われがちですが、現像し終わってからはその写真を見た印象が人によって違うもの。兄が真木よう子との関係を気づいていたと理解した瞬間から、弟のゆれていた記憶が「兄が突き落とした」と確証に至ったのではないでしょうか。

 それにしても香川照之の演技は上手すぎる。弟への猜疑心を胸に秘めながら、殺人者としての今後のことを真剣に悩む。清廉潔白であることよりも罪滅ぼしのために投獄されることを望むといった自暴自棄の精神状態。面会中、弟を「人を信じない奴」と突き放す言葉だって、自ら弟とは絶縁状態にしてもいいと罪滅ぼしの一環だったのかもしれない。そして、法廷での弱々しい彼の演技はそうそう真似できるものではないのでしょうね。

 形見分けとか遺産相続についてもサイドストーリーがあるような気がしてならないのですが、父・勇(伊武雅刀)と伯父(蟹江敬三)との会話で「兄さんだけいい思いをして・・・」という勇の言葉にあるように、大学は出してもらって弁護士となった兄とGSという稼業を継いだ弟がその息子たちに違った道を選ばせたという比較が面白そうです。ちなみに香川照之が東大出身ということも・・・

【2006年10月映画館にて】

kossy
NOBUさんのコメント
2021年3月4日

おはようございます。
 今作、映画館で鑑賞されたのですか・・。 良いなあ。
 仰る通り、新作と並ぶ西川監督の代表作ですね。(個人的には、「永い言い訳」も好きです・・。
 話は変わりますが、最近本が読みにくくなり(ガーン!老眼かな!未だ(もう)不惑なのに・・。
 という事で、深夜に映画を観る時間が多くなり、(何故か、映画は問題なし)昔見た映画を観て、レビューを上げているのですが、上げたレビューが掲載される場所がマチマチデで、戸惑っています。
 昨日の朝は忙しい仲、masamiさんへのコメントバックをしようと思い、探しましたから・・。
 ATMと同じかな。(事務局の方、すいません‥。昨日状況をメールさせていただきました。)
 では、又。

NOBU