劇場公開日 2006年1月14日

「複線の張り方が素晴らしい」THE 有頂天ホテル 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0複線の張り方が素晴らしい

2008年4月23日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

映画「有頂天ホテル」を見てきました。

 この映画は、「愛と勇気と素敵な偶然をお届けします。」を公式サイトで約束している作品です。ドタバタに近い喜劇なんですが、宣伝文句のとうり、数々のエピソードを等して、年末の年の瀬に、来年は、未来にはいいことがあるから、諦めないで希望を持って生きようという気持ちにさせてくれる映画になっています。

 年末のカウントダウンパーティを控えたホイルで、スキャンダルから身を隠す代議士(佐藤浩市)や、大物演歌歌手(西田敏行)に高級娼婦(篠原涼子)などなど個性的な連中が巻き起こすトラブルの数々を、主人公の副支配人(役所広司)ら従業員が的確にさばいていくというストーリーです。

 「有頂天ホテル」の題名は、昔の海外の映画作品から着想したようなのですが、「有頂天」な人たちが真っ逆さまに落ちたとき、どう希望を見出していていくか。
 また有頂天になれなかった人たち。例えば主人公の副支配人だって、かつて舞台監督夢破れて、ホテルマンになった過去があったり、香取慎吾が演じるベルボーイは、シンガーソングライターを目指していたのにもかかわらず、売れずじまいで諦めかけていたり、YOU演じる演歌歌手は、ステージで歌を歌さえ歌わせてもらえず、マネージャーの単なる愛人になっていたり様々に挫折した人たちも登場してきます。
 この映画は、その希望を全く説教じみた台詞を使わないで、数々の素敵な偶然を紡ぎながら、観客に「そうなって欲しい」という期待どうりの結びを見せて、「よかったね」ってほのぼのとした心地にさせてくれて、なんだか自分も頑張れそうという気分に導いてくれます。

 もちろん笑えるところもいっぱいあります。その笑いはとても良質なんですね。無理なドタバタでなく、幾重にも複線を張り巡らして、あれよあれよと登場人物をドツボにはめ込んでいくストーリーに、そうなるかも?と分かっていても、思わずクスクスわらってしまいます。
 よくある若手芸人をいじめて受けを狙うタイプの後味の悪さもありません。ホント出演者たちも楽しそうに役をこなしている感じが伝わってきて、心地よい気分となりますね。
 例えば、前出の慎吾ベルボーイが、冒頭夢を諦めホテルの退職して田舎に戻ることになっていて、自分の愛用していたバンダナやギター、そして幸福を呼ぶ人形をホテルのスタッフにプレゼントします。そのアイテムが、ストーリー中次々登場人物の手に渡されていき、最後に当の本人のところに戻っていくのですが、その偶然が重なっていくプロセスは、一筋ならではでなく、よくぞここまで細かく複線を考えたものだと感心してしまいました。だから、自分が上げたものが偶然に、自分に戻ってくるとき、シンガーとして諦めていた夢を慎吾ベルボーイが取り戻すところは、説得力があるし、ちょっとグッときましたね。

 あと松たかこのセリフですが、「言いたいヤツには言わしておけ!」といって、有頂天な人たちを前に、毅然とものを言うところは、スカッとすることでしょう。

 映画としては、非現実すぎると批評する人もいるけれど、作者の三谷幸喜自身この作品では、「アリの巣箱を観察する気持ち・面白さがホテルの一日を覗き見ることに似ていると思った。それぞれの人生や日常のシーンが絡まりあう面白さを映像化したかった」と語っています。日常生活にない日常の中の非現実空間がホテルには詰まっていて、そのエッセンスを凝縮して演出したかったのであろうと思います。
 三谷監督は、その辺を「出演者に靴を一度も脱がさない映画が撮りたかった」と舞台挨拶で語ったそうです。一度でも靴を脱がすと、その先はありきたりの日常生活を延々と描かなくてはならなくなります。その点一度も靴を脱がなくて済むホテルを舞台とした映画なら、「愛と勇気と素敵な偶然」を描く舞台としてふさわしかったのでしょう。

 主役級が勢ぞろいしたキャストや、ホテルのフロアを丸ごと再現したセットの豪華さは、間違いなく邦画最大級です。

 最後にオダギリジョーさん、唐沢寿明さんには驚きました!皆さんはこのお二人がどんなキャストで登場しているか、予備知識抜きで見抜けるでしょうかねぇ。あとで知ったなら、もうびっくりですぞぉぉぉ~!

流山の小地蔵