劇場公開日 2002年8月10日

「キュアロン監督のスタイル」天国の口、終りの楽園。 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5キュアロン監督のスタイル

2023年11月20日
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鑑賞方法:DVD/BD

ルイサの夫は、小説家には自分のスタイルが必要だと言った。これは映画監督でも同じだろう。では、このセリフを言わせた監督、脚本のアルフォンソ・キュアロンのスタイルとはどんなものだろうか。
キュアロン監督は表面上で起こっているストーリーとは別に音楽と映像で物事を伝える二層構造の監督だと思う。
常に明るい晴天のメキシコ。途中で数えるのを止めたほどに何度も登場する結婚式(5回以上)と人の死に関するエピソード(8回以上)。登場人物の誰でもない、いわば神の目線によるナレーション。
これらは表面上のストーリーとは直接的には関係がないが、エンディングに向かうにつれ次第に融合していき、ラストで力強く輝く。

部活頑張る系以外の青春映画は総じて苦手なのだが、本作では一番苦手な破壊行為がなかったので想像以上に楽しむことができた。
というか、本作は青春映画の皮を被った人間讃歌とキュアロン監督のメキシコ愛の作品だった。
原題の訳は「君のママとも」。このアホみたいなタイトルさえ作品の本質を隠すための巧妙な罠だった気さえする。
二層構造の表層が青春映画で、本来の核である二層目が人間讃歌なのだ。

最終的に監督の意図するところを完全に読み解くことは私の力量ではできなかったけれど、逆にそれが心地よいモヤモヤとして頭の片隅に残り続ける傑作になった。
メキシコでは万物に生命が宿るという。「天国の口、終わりの楽園。」にも生命が宿ったような気がする。

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つとみ