劇場公開日 2004年3月27日

「ポン・ジュノ監督の映画監督としての力量と、一貫した批判性を十分に理解することができる作品。」殺人の追憶 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ポン・ジュノ監督の映画監督としての力量と、一貫した批判性を十分に理解することができる作品。

2020年6月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

本作は1986年に韓国の農村地帯で発生した、実際の連続殺人事件を基にしています。事件の途中経過を切り出して物語化しているため、観客の視点は警察側にほぼ固定されています。そのため、ソン・ガンホ演じる刑事と同様、観客も犯人に翻弄される焦燥感を味わうことになります。この、どこに出口があるのか分からない緊張感を、トンネルの内部や夜道を映し出した映像が視覚的に強化しています。

 事件がどのような経過を辿ったのかは諸々の解説が示すとおりです。犯人の狡猾さが警察を翻弄したのは確かですが、本作では警察の捜査方法に大きな問題があったのではないか、という疑問を投げかけています。当時の韓国は軍事政権下としては比較的治安が良かったようですが、事件発生の三年前には大韓航空機撃墜事件が発生するなど、軍事的緊張が続いていました。そのため警察力を国防関係に転用するなどの人員不足が生じており、それが現場の捜査不徹底に繋がったようです。さらに軍事政権の影響からか、当時の警察は自白重視、拷問黙認の捜査手法がまかり通っており、むしろ事件の究明を遠ざける場合もあったようです。

こうした韓国の暗部を描き出す姿勢はもちろん『パラサイト』に至るまで一貫しており、ポン・ジュノ監督の作家としての揺るぎなさを思い知る一作でした。

yui