劇場公開日 2022年12月17日

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「不透明な青空」子猫をお願い 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0不透明な青空

2022年12月21日
iPhoneアプリから投稿

どこまでも瑞々しさを欠いた青空。それはまるでオフィスや高速道路のように無機質で冷たい。韓国映画にありがちな確固たる善悪観念とナラティブはそこには存在せず、人々の微かに温かな交感だけが水に浮く油のように画面上を空転している。

高校という無菌室からそれぞれ異なる進路へと放り出された若い女たちは、経路こそ違うものの最後には同様の社会的閉塞に辿り着く。貧困、家庭問題、女性差別。しかしそこには確固たる敵がいない。敵は不可視の毒霧のようにそこら中に拡散してしまっている。ゆえに彼女たちが感じる不閉塞感は終ぞ不安以上の定形を持たない。それでも(それゆえ)毒は確実に彼女たちの身体を蝕んでいく。

敵の見えない失明状態の中、女たちは友人という小さな社会単位に立て籠もることでできる限りの自衛を図る。しかし物語が進むにつれ、それも緩やかな崩壊を迎える。上向きに壊れていくヘジュと下向きに壊れていくジヨンのギャップを埋めようと奮闘するテヒの痛々しいまでの健気さ。しかし彼女が人間性を発揮すれば発揮するほどに、彼女と韓国社会の冷たいリアルとの懸隔は開いていく一方だ。

散々迷った挙句、テヒはジヨンに寄り添うことを決意する。拘置所から出てきたジヨンを家出娘となったテヒが迎えるところで本作は幕を閉じるが、果たして二人はどこへ向かうのか。自由の暗喩であるはずの飛行機、しかしその軌道はあの無機質で冷たい青空へと伸びている。二人の辿り着く先が、子猫一匹の居場所すらないうすら寒い世界でないことを祈るほかない。

概して良作だったが、当時性を鑑みてもちょっとダサいんじゃないかな〜という演出がちらほら。そこに「冷たく平板な韓国社会に対する若い女たちの生き生きとした抵抗」という明確な寓意が込められているんだろうけど、それにしたって画面を5分割したり画面上に打ち込んだメールの文字を映し出したりというのはやりすぎの感がある。静謐と軽薄のぎこちないパッチワークを通じて韓国社会の不条理な現況を現出させることこそが本作の目指す地平だということはわかるのだが、もう少し加減できたんじゃないかというのが正直なところだ。

因果