劇場公開日 1976年11月3日

「軍隊と新興宗教」さらば冬のかもめ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

2.0軍隊と新興宗教

2018年1月18日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

幸せ

 年始早々インフルエンザで1週間寝込んだ。その最中に3回に分けて鑑賞。
 ジャック・ニコルソンの主演作としては「カッコーの巣の上で」と対をなす作品ではなかろうか。
 彼が「護送」することになった若い水平の精神が抱える問題点が、収監先であるポーツマスまでの旅の道すがらに明かされていく。一方の「カッコー」ではニコルソン自身が本当に精神に異常をきたしているのかどうかが主題となっている。
 「冬のかもめ」のニコルソンは一介の水平なので精神病に関しては素人である。しかし、自分が護送している若者の「欲しくないのに盗んでしまう」癖や「母親に電話ができない」という屈折した母性への渇望を自然に感じ取ることができる。まるで一流のカウンセラーのごとく、この若者の問題行動の原因を親からの愛情不足だと喝破し、この護送中に人並みの生活の楽しみ方を教えることを自分の使命だと感じるのだ。
 この姿は、まさに「カッコー」の収容施設の婦長が、収容者たちを精神病者として扱うことによって、やがては本物の精神病患者へと変えていくのと対極にある。
 護送途中に立ち寄るニューヨークで日蓮正宗の集会や信者との交流が描かれる。この日本最大の新興宗教がアメリカ映画の中で正面から描かれていることに大変驚いた。
 しかも、その宗教に対する眼差しは肯定的でも否定的でもなく、極めてニュートラルに感じさせる。
 軍隊や学校教育、まして崩壊した家庭では救われなかった若者たちの拠り所となっている新興宗教の姿を何の衒いもなく描いている。

佐分 利信