劇場公開日 2006年8月19日

「魅惑的な唇にやられちゃいました」マッチポイント kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0魅惑的な唇にやられちゃいました

2020年10月9日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ロンドンに拠点を移してからの映画はオチにこだわりすぎているような気がするウディ・アレン。彼の映画だと知らずに観ていたら、多分つまらないんじゃないかとも思えるストーリー展開なのですが、イギリス上流階級をさらりと皮肉ってみたり、逆にアメリカ人をも皮肉ってるようであったり、嫌味に感じない程度の平凡な流れ。上流階級の人間が観客をも小ばかにしたような態度にはムカムカとしてくるはずなのに、ウディ・アレンの映画だと思えばこそのめり込むことができました。

 設定はどうあれ、浮気していた相手が妊娠してしまったため、悩んだ末に殺意を抱くといったよくあるパターンで、中盤以降はドストエフスキーの「罪と罰」をモチーフにした心理サスペンスの展開となってくる。しかも衝動殺人ではなく、用意周到に計画したクリフ(ジョナサン・リース・メイヤーズ)はノラ(スカーレット・ヨハンソン)の隣人に住む老婆をまず殺害してしまうのです。この終盤の展開が案外とスピーディに描かれていたため、罪の意識に苛まれ苦悩するといったシーンが短めなのがいい。逆に序盤が長すぎたようにも感じたのですが、ウディ・アレンがスカーレット・ヨハンソンに惚れこんでいたためなのでしょう・・・

 完全に見落としていると思うのですが、オペラや小説など、伏線がいっぱいあったのでしょう。だけど、ドストエフスキーと意外なオチがわかりやすいので、誰もが楽しめる作品になっていると思います。ただ、リングが欄干にぶつかり宙に舞うショットは『ロード・オブ・ザ・リング』かと思ったのですが、これは違うのでしょうね(教えてください)。クリスが一生罪を背負っていくのか、成功者となるのか・・・議論の余地も残してくれたことも素敵な映画かと思います。

【2006年10月映画館にて】

kossy