劇場公開日 2005年12月17日

「本作は「シン・キングコング」なのです!」キング・コング あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0本作は「シン・キングコング」なのです!

2021年11月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

2005年のリメイク
こんな見事なリメイクは観たことはありません!

監督は9歳の時に、1933年のオリジナル版をテレビで観て、摩天楼から転落してコングが死ぬシーンに泣いたそうです
キングコングのリメイクを撮るために映画の道に進んだといいます

監督の1933 年のオリジナル版への限りない愛情と尊敬を隅々にまで感じます
そこからうまれる作品の本質への理解の深さは驚嘆するほどです

監督のこの作品に取り組む姿勢には本当に感服させられました
そしてこの作品に深く感動しました

骸骨島に着くまでの物語には監督の作品への愛情の深さが刻まれています

カールは、監督自身が投影されています
本作を撮る為の熱情と苦労を説明しているのはもちろんです
それはキングコングを観たいという世界中のオタクの投影でもあります

さらに少年船員ジミーは、オリジナル版を観て泣いた少年時代の監督が投影されているのです
そして本作を観る私たち観客の少年少女時代のみずみずしい感情の投影なのです

ヒロインをボードビリアンに設定したことも大変に活きています

それらがオリジナル版のストーリーに基本合わせて構成されている見事さ!
端折らずに大事に丁寧に撮られています

そしてキングコングの物語の本質は「美女と野獣」であると見抜いた深い理解には感激しました

終盤のセントラルパークの凍結した池の上で、ヒロインを握ったままくるくると滑り回るシーン
あれは「美女と野獣」の二人だけの舞踏会のシーンだったのです

コングの骸骨島でのアクション
怪獣特撮の最高峰です!
前景の俳優、中景のコングや恐竜、背景の熱帯樹木
これらが複雑に動き、しかも前景、中景、背景が目まぐるしく入れ変わる
しかも明るい明瞭な映像なのです

ブラキオサウルスの群れの大暴走
三頭のティラノサウルスとコングの闘い
巨大ムカデや巨大ヒルの襲撃
クライマックスのコングと複葉戦闘機との闘い
どれもこれも最高です!

複葉戦闘機の編隊の動きは、飛行機好きの円谷英二がもし見たなら嫉妬したはずのものです

コングがみせる顔の複雑な表情の演技
悲しみをたたえた目の色には、9歳の時の監督と同じように涙がこぼれました

米国の円谷英二にも相当するレイ・ハリーハウンゼン
その彼が目指していた特撮映像の究極が本作にあります!

ハウンゼンが数十年前に手作業でコツコツと撮影していたことを、現代の技術がそれを革新して推し進めた正常進化した姿なのです

ハリーハウンゼンは2013年に92歳で他界しています
本作公開時には84歳で存命中でしたから、元気であったなら本作を絶対に観たはずです
彼がどのように本作を評価したのでしょうか?
浅学にしてそれは知りません

ハリーハウンゼンにとってキングコングは師匠の作品であるだけなく、聖典のようなものだったようです
自分如きがリメイクするなんておこがましい
手直しが出来るものが何もない完全な作品と思っていたようです
「立ち入ってはいけない領域のもの」と語ったそうです

それでも自分の孫のような世代が、撮ったリメイクにはきっと満足したと思います
もうこれで後継者の憂いなく死ねると思ったことだと思います

ピーター・ジャクソン監督は1961年生まれ
つまり庵野秀明監督とは1歳違い
日本でいうならオタク第一世代です

レイ・ハリーハウゼンの作品、テレビのサンダーバードなどを観て育ったといいますから、オタクの素養が猛烈にあったということです

円谷特撮で育ったのが庵野秀明監督なら、
ピーター・ジャクソンはレイ・ハリーハウゼン特撮で育ったのです

そして、その二人とも映像の作り手側になりました
彼らの目的は子供の頃に見たオタクの原点を自らの手で再生産することだったと思います

脳内で補完した、本当はこうであろうと思った映像、ストーリーを、現代の最高の特撮技術で撮り直したい
その熱情が日本とニュージーランドのオタク第一世代を突き動かしたのです

つまり本作は「シン・キングコング」なのです!

本作のエンドロールの背景は普通の黒一色ではありません

上半分が黒、下半分が金色でグラデーションしています

延々と続くエンドロールが進むにしたがって、徐々に上半分の黒色が下に下がってきます

金色は、あの骸骨島の絶壁の岩棚にすわってコングが眺めた夕焼けの様に輝いています
あの時の次第に眠くなりまぶたがおちそうな幸せなコングのまどろみを表現しているのでしょうか?

終盤のエンパイヤステートビルの最上部でコングが眺めた朝焼けの輝きのようにも見えます
最上部から転落したコングの死にゆく意識を表現しているのでしょうか?

いやもしかしたら金色は夕焼けでも朝焼けでもなく、ヒロインのアン・ダロウの輝く美しさだったのかも知れません
そのコングの消えゆく最期の記憶だったのかも知れません

しかし最後になっても真っ暗にはならないのです

エンドロールの最後に献辞があります
オリジナル版の製作陣への、後世のフォロワーからの感謝の言葉です

キングコングは終わっていないのです
リメイクされたキングコングはこれからもシリーズとなってフォロワーが撮り続けて行くのです
このエンドロールの意味は、そうなるべきだという宣言だつたのです

蛇足
「モスラ」がキングコングの翻案だというのは、感じていました
しかし、インファント島の小美人の姉妹がなぜ登場するのか?
本作を観て分かった気がしました
キングコングからみると、ヒロインはこびとに見えるのです
その大きさの対比はモスラの小美人と同じくらいだったのです

あき240