劇場公開日 1981年2月28日

「色気と可愛げのない人間は信じるな。」グロリア(1980) はるさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0色気と可愛げのない人間は信じるな。

2022年12月5日
PCから投稿

ジーナ・ローランズの映画はこの一本しか見ていない。今回で二回目だけれど・・・・何という気怠さだろう。舞台はブロンクス。エントランスのドアは手動。薄汚れた壁に落書きこそないが、果たしてエレベーターは動くのであろうか・・・・大きな荷物を抱えた中年女が部屋に入っていく。待っていたのは男。怯えた眼差しの女が憔悴した男を罵る・・・映画はそんな風に始まった。
男も女も老婆も子供も追いつめられた小動物のように体の動きがぎこちない。そして部屋をノックする音。拳銃を握りしめて訪問者を確かめる男と女。主人公の登場。中年のうらぶれた容姿だけれど眼差しは雌豹のように鋭い。もう、このシーンだけで、何かが起こる予感がしてしまう。いい映画と言うものは冒頭のシーンで八割がた決まってしまう。
ストーリーはありふれている。逃亡・母性・因縁・暴力・組織・・・・儚い希望。どれをとっても陳腐過ぎて語る言葉を見つけるのに苦労してしまう。しかし、そんな物語もこの女優が覆してしまう。挫折を何度味わえばこの倦怠は身に付くのだろう。ジーナの色気は倦怠のドン詰まりに達してもまだ足掻くところからしか生まれないだろう。子供嫌いの女が母性に覚醒させられるなどと言うことは凡そ現実には起こりえない。であるのに、女どおしの友情を言い訳に子連れの逃亡を実行に移す。半ばやけくそに無防備こそが女の最大の武器であるかのように・・・その決断する時の表情たるや見るものに100パーセントの満足感を与えてくれる。
糞生意気な天然パーマ少年は漢族が殺されて2~3日で自立してしまうが、危うい行動に愛嬌一杯であるが故に母性を蘇らせてしまう。元カレは犯罪組織のボス。しかし上質でシックなスーツなんぞ着てやしないし、高級ホテルの部屋で貫録に充ち溢れた座り方などしていなくて、分厚いレンズの眼鏡を掛けた爺さん。
演じる役者、舞台などこの映画ではすべて「生」なのだ。
芝居も映画も小説も「生」がいい。演技は嫌いな僕はこの映画を気に入っている。

はる