劇場公開日 2006年2月11日

「負の感情の招く負の連鎖と浄化」クラッシュ(2005) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0負の感情の招く負の連鎖と浄化

2013年3月3日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

知的

難しい

総合:80点
ストーリー: 80
キャスト: 80
演出: 80
ビジュアル: 70
音楽: 75

 何ともぎすぎすしていて殺伐とした嫌な雰囲気と緊張感である。誰もが自分の不幸を呪い他人を責めたてる。そして他人がまた不幸になっていく。自分の持つ劣等感、怒り、憎しみ、本当はそれらを外に発しているのは自分なのだが、そんな邪悪な感情が反射して自分自身にも振りかかってきて、そんな負の連鎖が延々と続く。負の感情は負の結果を呼ぶ。
 この映画の大きな主題の一つは、負の感情の大きな一つである差別だろう。そして差別をしている登場人物たちの表情のなんと醜いことか。差別から解放されて相手をただの人として捉えることが出来たとき、彼らの実にすっきりとした表情の変化に、こちらも実に心がすっきりとする。幸せな結末とは言い難いし、感動するというのでもない。でも映画で続いた負の感情に汚された心が、見終わったときに綺麗に浄化された気分になる。

 家族と我が身の不幸を社会への怒りにして差別主義者になったライアン警官役のマット・ディロンをはじめとして、登場人物たちの演技も良い。知っている俳優ばかりではないのだが、それぞれの感情の描き方が短い登場時間の中でうまく表現されていたと思う。調べてみると、ヒスパニック系の鍵屋役のマイケル・ペーニャ、一番まともな登場人物ともいえた警官ハンセン役のライアン・フィリップ、刑事グラハム役のドン・チードルなど、多くの映画で実績のある個性が揃っていた。
 本作はアカデミー作品賞受賞作「ミリオンダラー・ベイビー」の脚本を書いたポール・ハギスの初監督作。冷たいまとわりつくような雰囲気を出していながら、でもすさんだ心を洗うような雰囲気に変えていく、とても良い作品だったと思う。その一方で不幸なまま取り残された人や、不正のまま解決されそうにない事件を残していることが現実を突きつけているように見えて、それもまた余韻を残していて良い。「ミリオンダラー・ベイビー」に引き続いての今作の出来具合からして、このポール・ハギス、今後の活躍が非常に楽しみであり、注目して見てみたい。

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Cape God