劇場公開日 1957年1月15日

「完璧では無い脚本が完璧な映画を作る。」蜘蛛巣城 まだ無名映画原作家さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0完璧では無い脚本が完璧な映画を作る。

2019年11月26日
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もちろんシェイクスピアのマクベスという素晴らしい原作があるのだが映画脚本としては決して優れているとは言えない。むしろ優れた脚本を書こうとはしていないようだ。原作が舞台であることから舞台を意識した脚本になっている。だから映画としては地味すぎ、説明的すぎる部分もかなり目立つ。例えば、危機を逃れたの若者が、その後どのように怒っているかというところは普通は脚本に描かれる。あえて城と森からカメラを出さないことによってまるで我々が舞台という限られた一面しか見ていないかのような錯覚を与えているのである。そのような制約を設けた脚本から黒澤明はこのような素晴らしい映画を作った。この映画の素晴らしさはそのスローペースにあるのだろうと私は思う。話の展開そのものはスピーディーに進むのであるが、ひとつひとつのシーンが極めてスローに進む。その絶妙な演出が素晴らしい。またカメラは基本的には静止しているのだが時折まるで生き物のように動く。静と動のバランスが素晴らしい。または三船敏郎の甲冑姿がすばらしく良く撮れている。前半はストーリーの退屈さをカバーするために甲冑姿をアップで美しい角度からたくさん撮ってている。クライマックスあたりになるとわざとそれを抑え極端な煽りとかを使って真正面から撮らないようにしている。そして最後の最後に真正面から美しく…私はあのシーンを敢えて美しいと表現するが…捉えているものにカタルシスを与えているのである。また城の造形とその造形を美しく見せるカメラワーク、軍兵、馬、軍兵の持つ旗などが動く動きの美しさ、面白さと言ったら極めつけである。
もっとも素晴らしい映画とは新しいイマジネーションを生み出している映画だと私は評価する。これは1つの最も素晴らしい映画であり黒澤明の代表的な傑作の一つである。

タンバラライ