配信開始日 2023年12月22日

「様子を常に窺っている男」Saltburn talismanさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0様子を常に窺っている男

2024年1月10日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

笑える

怖い

オープニングの文字のフォントがドイツのフラクトゥア風だったのでどんな話なのか不安になった。文字のフォントがテーマのシーンでは、オリヴァーがTimesNewRomanがいいと提案していた。オリヴァーは文学、特に小説や詩を読んでいて勉強はちゃんとしているみたいだった。大学入学前の課題図書50冊も全部読んだと指導教授に言っていた(本当かどうかわからない)。その場面は彼の指導教授の研究室。約束の時間にかなり遅れて来たもう一人の新入生から名前を聞きその母親が自分と大学時代の同級だと知るや否や教授の態度が急に変わるのは、スノッブで内輪の学歴同窓の嫌らしさ丸出しで気持ち悪かった。

オリヴァーを気持ち悪がる女子大生の気持ちはわかる。オリヴァーと同じく友だちがいない数学得意新入生の粘着質な承認欲求は気持ち悪い上に怖かった。外見と格好がダサいというのは階級社会で圧倒的に話にならないことがあからさまで悪意さえ感じた。

貴族ファミリーが表面的で素直で単純で、騙すのも廃人にするのも赤子の手をひねるほど簡単で朝飯前というのはよくある話だと思った。にも関わらず昔からの決まりだけは守る様子は滑稽だ。休暇中なのに夕食は常に正装、男はまず自分の右に座った人と話さなくてはならない。朝食はビュッフェなのに卵だけはどんな風に食べるかと場合によって固さを指定して作ってもらわなくてはいけない。イギリスって感じで笑えた。そして何があってもランチをとる。

パゾリーニの「テオレマ」を裏返して左右逆にしてひっくり返してねじったような映画だった。純粋で瞳がきれいで素直に憧れの気持ちを表現できる男の子と、蛾だか蛇のように獲物を窺いクールな頭脳を持った邪悪な男をバリー・コーガンが素晴らしく演じた。

超富裕層とそうでない大半の人々の分断を皮肉に情けなく恐ろしく描いている。という内容と相反するかのように、ポップで明るく可愛い色彩がシーンによって使われていて「プロミシング・ヤング・ウーマン」の監督だなあ、面白いなあと思った。

talisman