劇場公開日 2024年1月26日

「素朴な中に煌めきがある。思い返すだけで涙ぐんでしまう」コット、はじまりの夏 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5素朴な中に煌めきがある。思い返すだけで涙ぐんでしまう

2024年1月27日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

言うなればこれは素朴な物語だ。大家族の家長はギャンブルにうつつを抜かし、人に対する態度も最低。彼自身、己に愛想が尽きて、もはや開き直っているようにも見える。そんな多難な家庭に育った物静かな少女コットが、母の出産までの間、親戚夫婦の世話になることに・・・。きっと多くの観客は親戚夫妻を目にする瞬間、外見にほとばしる優しさと慈愛に心底ホッとし、ここからは人間の正の部分に目を向けた温かいドラマが始まっていくのだと予感するはず。現に夫婦とコットは次第に打ち解けあい、少しの言葉や表情だけで多くのものを察しあえるほどの愛情で結ばれていく。その過程を美しく彩る風土。光の角度。和解のお菓子。ポストまでのダッシューーー。やがて明らかになる過去も含め、本作は登場人物の内面を決しておざなりにせず、繊細に大切に描写を重ね、観る者の胸にジワッと感情を染み渡らせていく力がある。心のこもった贈り物のような素晴らしい作品。

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牛津厚信