劇場公開日 2024年1月12日

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「外の世界を知らないということ」ビヨンド・ユートピア 脱北 もいさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0外の世界を知らないということ

2024年3月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

タイトルにもなっているユートピア(理想郷)。最も私たちからすればそれは北朝鮮以外の世界を指すのだが、北朝鮮にいて北朝鮮以外の世界を知らない人たちにとっては、彼らが暮らすその北朝鮮こそがユートピアだと思い込まざるを得ないのだ。
それは作品で登場する脱北家族のひとりである老女が取材陣に語る場面で色濃く現れている。老女は祖国を信じ、金正恩を崇拝していた。将軍様がご立派なのに国民の努力が足りないから国が発展しないのか…とまで語っていた。(娘が横から「そうじゃないでしょ」と指摘する。)

そもそも北朝鮮では情報規制がされているため、国民は政府が操作した情報しか与えられない(見られるテレビは国営放送のみの1チャンネル)。そのため北朝鮮以外の国では飢餓の蔓延や孤児の大量発生があるなど、北朝鮮がいかに恵まれた国なのかということが植え付けられてしまうのだ。そして、外の世界を知り、外の世界と繋がり、外を目指す者は厳しく処分されるシステムだ。

北朝鮮の人口は約2500万人とされ、韓国の約半分。人口の確からしささえ疑ってしまうが、このうち2023年に韓国入りした脱北者は、前の年の3倍にあたる196人だったそうだ。(コロナ禍での行動規制が緩和されたことが背景。)
脱北を試みたが叶わなかった人たちも多いだろう。それでも、本当に一握りの人たちだけが行動に移すことができるのだと思った。それ以外の多くの人が北朝鮮以外の世界を知ることなく一生をそこで過ごす。

無事に脱北した人々の幸せを願う気持ち、脱北を望むもそれが叶わない人やそもそもあえて脱出を願わない人たちの葛藤、変わらない北朝鮮社会への怒りや失望…色々な想いが重なった作品だった。

映画を観に行った3月1日は、1919年に三・一独立運動があった日。過去も今も未来も、日本が関わっていること(関わってゆくこと)を忘れてはいけない。

もい