劇場公開日 2023年12月1日

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「程よい共生関係」ポッド・ジェネレーション レントさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0程よい共生関係

2023年12月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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近未来、女性の妊娠出産をAIが管理する卵型ポッドが担うというお話。こう聞くと、人間の出生がすべてオートメーション化された「素晴らしい新世界」のようなディストピアものを連想するが、本作はそんなディストピアものではなく、かといってユートピアものでもない。あえて言うなら人類がどちらを選択するかという作品といえる。

男女差別が完全になくなった世界、男性同様社会進出している女性にとって唯一のハンディである妊娠出産のリスクをなくす画期的技術が開発される。
受精から出産までを子宮センターが管理するポッドが行うという、今でいう代理出産みたいなことが技術的に可能となった。

キャリアウーマン(もはや死語)のレイチェルは優秀で忙しく、いまだ子供が持てなかったが会社の昇進祝いで子宮センター利用の補助を受けられることに。
合理主義者の彼女はポッドの利用には抵抗がなかったが、自然派志向の夫アルビーには妊娠出産は母体により自然に行うべきとの考えがあった。しかし、そんな自然派の彼も便利な科学技術を完全否定するほどではない。AIを使いこなせず焦げ付いたパンを提供されてはいるが。
渋々、ポッドでの出産を認めるアルビー。しかし、彼は次第にポッドに愛着を感じるようになる。身ごもることができない男性ゆえ今まで感じることができなかった胎児への愛着がポッドと過ごすことで生じる。逆にポッドに肯定的だったレイチェルの方が妙な夢を見たり、子宮センターのやり方にどんどん違和感を感じるように。

確かにポッドのおかげで妊娠出産によりキャリアを犠牲にすることもなくなった。でもレイチェルは違和感を拭えない。砂浜を裸足で歩く夢を見る彼女は自然を渇望してる自分に気づく。生身の足で感じる砂の感触、これは作り物では決して味わえない。アルビーが言うように子供は自然に育てたいという気持ちが次第に大きくなってゆく。

科学技術が進んでAI任せの生活は便利だけどすべてを委ねたくない。AIに完全管理され肉体労働やお産の苦しみから解放されて人の暮らしは一見幸せのようにも思える。でも逆に苦しみや苦痛からすべて解放された人はどうなるのだろう。苦しみと喜びは表裏一体。つらいからこそ喜びがある、妊娠出産の苦労が大きければ出産時の喜びも大きいものとなるはず。
AIに完全管理されすべての苦痛から解放された世界なんて逆に生きてる喜びも感じられないディストピアなのではないだろうか。
ピクサーの傑作「ウォーリー」ではまさにAIに完全管理されて人間が幸せそうな毎日を送ってたけど、実は繫殖もすべてAIにより行われていて、人間は恋愛することも忘れていた。それが間違いだったと気づいて人間らしく生きなおそうというお話。本作もそれと似ている。

人間は自然から生まれた生き物、自然と完全に縁を切ることもできない、でもかといって一度知ってしまった文明の甘い蜜も捨てきれない。
本作は自然と科学文明の両者と程よく付き合っていきましょうということが言いたいのか。自然の中で出産したいといいながら、結局赤ちゃんはポッドで出産するわけだから科学技術を完全に否定はしてない。どちらか一方にこだわるわけでもなく、一方を否定するわけでもない。

地衣類の共生関係のようにお互いが居心地よい関係を築ければいい。科学技術に完全に管理されるのではなく、ほどよく利用すればいい。妊娠出産に耐えられない健康的事情などがあればポッドの利用もいいだろうし。

人類が進歩した科学技術をどう受け入れ、それとどう共存してゆくかを描いた結構深い作品。ただ、エンタメ性は弱い。

ちなみにポッドを開発運用していた企業のCEOが、我々のお客はあくまでも親ではなく子供であるとか、子どもが親を選べる時代になればいいとか言っていた。子供の教育費用も国ではなくこの企業から支出されていた。これって企業が次世代の人間たちを支配してしまう怖さを示唆していたのかな。ポッド内の胎児に夢を見させる薬剤とか開発してたし、いずれは胎児を自分たち企業の都合のいいように洗脳することまで考えてたんじゃないかな。そういう点ではディストピアものと言えるのかも。

レント