コラム:第三の革命 立体3D映画の時代 - 第6回

2010年4月22日更新

第三の革命 立体3D映画の時代

第6回:2D/3D変換技術の活用(2)

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■2D/3D変換の種類

【図2&3】元の画像(左)とそのデプスマップ(右)の例
【図2&3】元の画像(左)とそのデプスマップ(右)の例

2D/3D変換の手法にも、たくさんの種類がある。おおまかに分類すると、以下の5つに分けられるだろう。

(1)レイヤー分解と画素ずらし
(2)デプスマップとディスプレイスメント・マッピング【図2&3】
(3)3Dモデリングとプロジェクション・マッピング
(4)ボクセル化による半自動処理
(5)自動変換

(1)は、ロトスコープ(手作業による切り出し)で被写体をレイヤーごとに分解し、少しずつ左右にずらして視差を付けていく方法である。画像にギャップ(視差分の欠けた箇所)が生ずるため、前後のフレームから移植したり、ペイント修正できれいに埋める必要がある。

(2)は、疑似的なデプスマップ(奥行きをグレーの階調で表現した画像データ)を作って、ディスプレイスメント・マッピング(グレーの値を3DCGのZ軸データに変換し、実際に画面に凹凸を付ける手法)で立体化するというもの。【図2&3】

(3)の手法は実写作品の場合、オリジナル画像から見た目で3DCGのジオメトリ(幾何形状)を作り、その上に元画像をプロジェクション・マッピング(プロジェクターで投影するように、画像データを3DCGに張り付ける手法)する。これはフルCGアニメ作品だった場合でも、画像のプロジェクション・マッピングを行うことで、色や照明の計算が省略できる。ただしジオメトリ・データを利用できる分、実写より効率が高い。

ただしどちらの場合も、ギャップのペイント修正が必要になる。自然さは断トツだが、新作長編を作るぐらいの手間を必要とする。ハリウッド映画やIMAX(R) 3D作品には、この手法が使われることが多い。

「アバター」では敵役を演じた ジョバンニ・リビシ(左)
「アバター」では敵役を演じた ジョバンニ・リビシ(左)

(4)は、日本人の泉邦昭氏と俳優のジョバンニ・リビシがロサンゼルスに設立したStereo D社が採用している独自手法である。最初は、キーとなるフレームをロトスコープでセグメント化する作業を必要とするが、深度情報はルールベースやカメラ・シミュレーションの支援で効率に解析され、ボクセル(ピクセルに奥行き情報を加えた、画面を構成する微小立方体)データに変換される。後は自動補間処理によって高速に3D変換を実現でき、ギャップのペイント修正などもほとんど不要である。一度作成された変換パラメータは、すべて属性として保存されるため、試写を行いながらの微調整も容易になる。さらにステレオ画像から深度情報を自動的に割り出すことで、撮影後に視差を修正することも可能にした。「アバター」の一部で2D/3D変換が必要になり、10社ほどのブラインドテストでStereo D社がもっとも優れていると判断された。

(5)の場合、単純には時間差を利用するという方法がある。つまり左右で、数フレーム時間的にずれた画像を表示すると、それが両眼視差と同様に立体的に知覚される原理に基づくものだ。ただし映像のシチュエーションが、視点や物体が横方向に移動している場合に限定されてしまう。

もう1つは、統計的な傾向(地面が手前で空が奥など)を利用して深度を数通りにパターン化し、それに画像を当てはめるという手法がある。ただし単純な風景のような場合はうまくいくが、ドラマのような複雑なシーンではうまく対応できない。

さらには輝度、彩度、コントラスト、先鋭度、暖色/寒色、濃淡変化、位置関係、セグメントの大きさ、稜線の傾き、運動量などの要素から、物体の遠近を自動的に判断するという手法もある。しかし、時々奇妙な立体感になってしまう場合がある。単純には、フィルター処理によるエンボス効果を利用するというものもある。

実際には、これらの手法をいくつか組み合わせることで処理されることが多い。こういった技術は主に日本で発達してきた手法で、例えば、1995年には三洋電機から2種類の変換回路を搭載した「2D/3Dワイドテレビ 立体ビジョン」が発売されているし、2002年にはシャープから2D/3D変換を行うエディタを内蔵した携帯電話「ムーバSH251Is」が出ている。

日本映画初のフルデジタル3D実写作品だった 「侍戦隊シンケンジャー 銀幕版/天下分け目の戦」
日本映画初のフルデジタル3D実写作品だった 「侍戦隊シンケンジャー 銀幕版/天下分け目の戦」

ちなみに、そのムーバの3Dエディタに採用されたアルゴリズムを開発したのは、日本のマーキュリーシステム社である。同社の技術を導入したポスト・プロダクションのキュー・テック社は、「侍戦隊シンケンジャー 銀幕版/天下分け目の戦 」「アルビン号の深海探検3D」「10thアニバーサリー 劇場版 遊☆戯☆王/超融合!時空を越えた絆」などの2D/3D変換作業を受け持っている。

今後、自動処理がもっとも期待されるのは、2Dのテレビ番組をリアルタイムで3Dに変換する技術であろう。すでに各社が、ある程度までは実用化している。とはいえ、過大な期待は持たない方が良いかもしれない。やはり人間の手で時間をかけて処理したものにはかなわないからだ。

また、テレビ番組の自動3D変換の場合、著作権法20条の同一性保持権(著作者の意に反して変更、切除その他の改変を禁止することができる権利)の侵害にあたる可能性も指摘されており、これも難しい点である。

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筆者紹介

大口孝之のコラム

大口孝之(おおぐち・たかゆき)。立体映画研究家。59年岐阜市生まれ。日本初のCGプロダクションJCGLのディレクター、世界初のフルカラードーム3D映像「ユニバース2~太陽の響~」のヘッドデザイナーなどを経てフリー。NHKスペシャル「生命・40億年はるかな旅」のCGでエミー賞受賞。「映画テレビ技術」等に執筆。代表的著作「コンピュータ・グラフィックスの歴史」(フィルムアート社)。

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