コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第2回

2015年7月6日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング

クラウドファンディングで映画を作る際に必要な素養とは

大高:クラウドファンディングを行う上で、お二人が気を付けた点などはありましたか?

吉野:それでいうと、MotionGalleryに掲載するページの文章も相当考えましたね。この写真をこの文章と組み合わせてこの位置で見せよう!みたいなのをずっと考えていた。最初のページぱっとクリックして最初ぱっと出るじゃないですか。そのスクロールさせるまでをどうするのか、すごい考えましたね。スクロールさせてどんどん下まで読ませなくてはいけない、という時に、じゃあここにこの写真ってなにか起こりそうなはず、と計算した。

壱岐:僕も文章めっちゃ考えたな。推敲を何度もして。世の中に出るものですからね。流れて消えるものではないので。何度も読んで考えてもらうためのものなので。

大高:しっかりと想いが伝わるプレゼン力は非常に重要ですよね。他の観点では、クラウドファンディング自体がお祭り的でもあるので、共感の渦を作る様なイベント感も重要な視点だと思いますが、お二人が同時期に「落語映画」でクラウドファンディングを開始したので、ある種のムーブメントができたように見えました。

吉野:今回、二人で一緒に協力たところもあり「ねぼけ」のチケットを購入した人が、そのまま私達の応援もしてくれたり、その逆向きもあったりしたんですよね。

壱岐:ありましたね、二つの映画のクラウドファンディングを行うことで、盛り上がってる感じが見えたようで、そこで人が集まってきた。楽しそうなところに人は集まってくれるって実感しました。

吉野:自分は映画作りに直接は参加できないけれども、なんかおもしろそうなことをやっているな、みたいな人たちを上手に巻き込んでいける仕組みでもありますよね。もちろん、その人たちにおもねるばかりではダメですけど、地方在住だったり、年齢的な問題だったり、仕事の関係で映画業界そのものに入れない人たちでも、映画作りに参加できる。そういう循環も作り出せる。

ただ、クラウドファンディングと言うと、まだお前らはなにもやらないで金を集めるんだろ、みたいなイメージがたぶんあると思うんです。だけど、本気でやろうとすると、とにかくコマメさが必要。喬太郎さんのコメント動画をアップしたり、細かい作業をとにかくたくさんやりました。

壱岐:クラウドファンディングって、基本的にはきちんと誠実にやるだけなんですよ。Motiongalleryの良いところは、集めたお金をこのように使いますって、事前に説明ができるところだと思っている。集めるだけじゃなくて、参加者にどのように還元するかも伝えられる。そこが健全だと思います。

大高:壱岐さんは非常にロジカルですよね。それって、広告制作のバックボーンがあって、マーケティングに近いも仕事をしていたから、というところが強い様な気がしますが如何でしょうか? クライアントワークをこなした経験が無いと出てこないある種の責任感というか。

壱岐:広告にしろ、映画にしろ、製作のベースとなる考え方は同じだと思います。目的志向で動かなければ、伝えたいメッセージは心に届きません。お客様に対して、人間の本質を描いて共感してもらうのか、ビールを美味しく見せて喉を鳴らしてもらうのか、ただ単純にアプローチの違いだけなのではないかと感じます。

大高:クラウドファンディングを行う上ではそのような細やかさや信頼感も非常に重要ですよね。そういう意味でいうとクラウドファンディングという手法が確立していくと、映画の作り方や配給の仕方も変わってくるものでしょうか?

吉野:変わると思います。さきほど言ったとおり、知名度は低いものの、熱狂的なファンを持っている方などの映画を作りやすくなります。ただ、現在の状況に懸念点もあります。観客のタコツボ化ですね。自分の好きなもの以外に興味を一切持たなくなってしまう人が増えているような気がします。アイドルの映画でクラウドファンディングを手掛けたらものすごいお金が集まったけど、同じ監督が次作でクラウドファンディングを行っても、まったく資金が集まらないというようなことも考えられる。送り手側がそこらへんの問題意識を持つことが必要というのはあるかな。

壱岐:趣味嗜好が細分化していますよね。その点、吉野さんがすごいのは,喬太郎師匠や、人気のタレントをキャスティングしているけれども、それを打ち上げ花火のような扱いにせず、普遍的な作品にしようとしているところ。そのタレントしか興味ない人、落語ファンで師匠にしか全く興味ない人も、その映画を観て感動するものにしようとしている。たぶん、吉野さんの映画を見たら、落語ファンのおじいちゃんが、きっとそのタレントに興味を持つようになるし、そのタレントのファンの若者が、落語ファンになると思う。そういう可能性が、映画とかクリエイティブにあると思っていて、クラウドファンディングはそのようなクリエイティブを創りだすのにとても良い方法なんですけれども、使い方を誤るとシュリンクしてしまう。人気タレントのファンがお金を出して、落語ファンがお金をだして、合計額で映画ができた。そのタレントのファンはお目当てのタレントだけ観て、落語ファンは落語家だけ観て満足する映画になると、その先が広がらない。

大高:その点を考えてクラウドファンディングを実施するクリエイターが増えれば、もっと資金も集まりやすくなって、それこそインディペンデントの形態でもミドルバジェットでちゃんと作れるようになりますね。ただ、逆に振れると,タコツボ化を促進してしまうと。

吉野:逆に言えば、キーポイントは50代60代の人だと思うんですよ。クラウドファンディングやプロジェクトを良いものにするか悪いものにするか左右するのって。50代60代の人がおもしろそうだなと思ってお金を出すことが増えると盛り上がるのかなと思ったりしますね。

壱岐:その方たちの協力を得られると文化になっていくと思いますね。

大高:先日明治神宮で行われた、「ねぼけ」の試写会、あれはとても良いと思いました。映画の試写の前に物語で登場した宮崎の神楽、そして入船亭扇遊師匠らの高座も行われた。落語ファンでクラウドファンディングに参加された方はもちろん神楽の迫力に感動したでしょうし、神楽や宮崎という縁で参加された方は落語に吸い込まれていったはず。そのような、多くの人たちの興味や感心を拡げられるツールになればいいですね。

壱岐:ぼくはまず、観客の前にプロデューサーを巻き込みました。「ねぼけ」の台本を読んでもらって、「ロケ費用が嵩むし、なぜ宮崎まで赴いて神楽を撮るのか?」って尋ねられたので、とりあえず神楽に触れてくださいって答えて、宮崎まで一緒に行ってもらったんです。そうしたらプロデューサーも神楽を支えている人間や営みに感動してくれて、何度も宮崎に足を運んでくれるようになり、結果として、物語として未知数だった神楽が、映画にとって欠かせない重要なシーンに育っていきました。映画の名の下に、今まで互いに知りえなかった世界同士がぶつかって、大きな推進力になりましたね。

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明治神宮でかいさいされた試写会
明治神宮でかいさいされた試写会

二人の監督のこれから

大高:今後の展望について教えてください。

吉野:まずは「スプリング、ハズ、カム」の完成。そして僕は別に「映画界に一石を投じよう」といった野望は一切なくて、自分が観たいなと思うのが一番だと思っています。映画を通してなにかメッセージを投げかける、というよりも、この人たち、この俳優さんたち、映画の中ですごい素敵だ!と思ってもらえるものを作りたい。強いて、テーマを挙げるならば、本当に日常の中で、よく考えてみるとすごいエモーショナルな瞬間だったな、という時ってたまにあると思うんです。日常のなかの普通のシーンのなかにあった、キラキラしていたとき。俺、なんでこんなすごいどうでもいいことを覚えているんだろう? ってぐらいの思い出ですね。そういう瞬間を集めたような映画にしたいなと思います。みんなが持っている似たような思い出の扉をノックするような作品を残したい。

壱岐:僕も同じく、日本映画界を変えてやろうという気概は全くないです。もちろん、見せ物としてのクオリティは常に意識しています。なのですが、僕が映画を取るのは基本的に自分の救済でもある。映画を通してカタルシスを得て、自我を浄化したいと思っている。
僕は些細なことでイチイチ悩んでるって言われるんですが、僕自身が持っている因果というのは、ほかの人と同様で、特別な悩みではないと思っています。世の中、うまくいかないことはいっぱいあると思うんですが、世間の光から零れた部分を丁寧に描いていきたい。

そういう意味で、『ねぼけ』の主人公は、市井の方々が感情移入できるような間口の広い普通のダメさを持った人間にしたんです。落語家という特殊な役なんですけれども、僕自身のダメさだったり、友達が酔っぱらったときに見せたダメさだったり、そういうのがベースになっています。僕は、人の弱さに寄り添う映画がすごく好きです。尊敬するポール・トーマス・アンダーソン監督や瀬々敬久監督のような。人間の本質に迫る姿勢を追走して行こうと心掛けています。

大高:ありがとうございました。お二人の益々の活躍、今回のクラウドファンディングに参加頂いたコレクターの皆さまも期待していると思います!これからも応援しております!

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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