コラム:シネマ映画.comコラム - 第29回

2023年5月12日更新

シネマ映画.comコラム

“怒り、恐怖、不思議、狂気、怪奇”を堪能する「世界の奇妙な映画セレクション」

映画配信サービスの「JAIHO(ジャイホー)」とのコラボレーション企画「JAIHOセレクションvol.2」が5月12日からスタートしました。今回は「世界の奇妙な映画セレクション」と題し、各国の一風変わった“怒り”“恐怖”“不思議”“狂気”“怪奇”を堪能できる5作品を配信。映画.comの編集部&スタッフの今田カミーユ、岡田寛司、飛松優歩、蛯谷朋実、和田隆がそれぞれの視点から配信作品の見どころやポイントなどをあげましたので、ご鑑賞の参考にしてください。

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配信作品は、「ドンバス」(2018)で第71回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門最優秀監督賞を受賞した、ウクライナ出身の鬼才セルゲイ・ロズニツァ監督による、ロシアの全体主義国家の腐敗と不条理に翻弄される女性の“怒り”を描いた「ジェントル・クリーチャー」や、ヨーロッパの桃源郷と呼ばれる美しい国ジョージアで突如として起こった「エホバの証人」の教会放火事件をきっかけに、過酷な運命をたどる女性の“恐怖”を描いた「BEGINNING ビギニング」。

さらに、ミャンマーからのロヒンギャ難民問題を描いた“不思議”の「マンタレイ」、カリスマ的インフルエンサーが抱える葛藤や孤独に満ちた3日間を描き出す“狂気”の「スウェット」、そして201分にわたる緻密な会話劇、体感したことのない台詞と情報量に脳が刺激される“怪奇”の「荘園の貴族たち」と、日常では味わえない、常識では考えられない“選りすぐりの奇妙な映画”5作品がラインナップされています。

作品購入者(視聴者)には特典として、貴重な海外版ポスターの待ち受け画像を全5作品分プレゼント。鑑賞料金は作品各440円(税込)です。

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「ジェントル・クリーチャー」
「ジェントル・クリーチャー」

■「ジェントル・クリーチャー

2017年製作/143分/フランス・ドイツ・リトアニア・オランダ合作

【作品概要】
 「ドンバス」などで知られるウクライナ出身のセルゲイ・ロズニツァ監督が、ドストエフスキーの短編小説「やさしい女」に着想を得て、全体主義国家の腐敗や不条理に翻弄される女性の姿を緊張感たっぷりに描いた“怒り”のヒューマンドラマ。

▼見どころ 和田隆

多くを語らない主人公の女性の疑問と怒りに満ちた表情と、説明を廃した異様な緊張感がほぼ全編にわたってみなぎり、見ている者は無意識に奥歯を食いしばっていることに気づくでしょう。全体主義国家の腐敗や不条理に翻弄されるとはいったいどういうことなのか。市民=個人の自由や人権よりも、国家や民族の意志や利害が優先される政治思想に対し、ウクライナ出身のロズニツァ監督の沸点ギリギリの熱い思いが伝わってきます。

収監中の夫に送ったはずの小包が何の説明もなく返送されてきたので、理由を探るため、辺境の地にある刑務所まで行ってみると、同じような境遇の人々が長蛇の列を作っています。差入れは説明もなく却下され、抗議すると連行されるという、まさに不条理な扱いに、個人としての当然の疑問と怒り、夫の安否への不安がこみ上げてきます。

ロズニツァ監督は、ドストエフスキーの「やさしい女」に着想を得て本作を作ったとしていますが、「やさしい女」は人を愛すること、その愛を持続することの困難さを描いた作品です。見方を変えれば、人権を蹂躙され、不条理すぎて夢の中にいるような、孤独な女性の頑なな愛の物語とも捉えられなくもありません。人を愛するとは何かを問いかけることで、不条理な政治思想への疑問と怒りを表明した作品なのではないでしょうか。

>>【「ジェントル・クリーチャー」を今すぐ見る!】


「BEGINNING ビギニング」
「BEGINNING ビギニング」

■「BEGINNING ビギニング

2020年製作/125分/ジョージア・フランス合作

【作品概要】
 「サスペリア」(2018)のルカ・グァダニーノ監督が「これはある種の啓示だ」と大絶賛。ヨーロッパの桃源郷と呼ばれるジョージアを舞台に女性の“恐怖”を描く。ジョージア出身の女性監督デア・クルムベガスビリが長編初メガホンをとり、第68回サン・セバスチャン映画祭で最優秀作品賞をはじめ4部門を受賞。第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション作品。

▼見どころ 蛯谷朋実

ジョージア映画といわれてもピンとくる人は少ないかもしれません。そもそもジョージアってどこといわれても、恥ずかしながら筆者もすっとは出てきません。カスピ海と黒海に挟まれ、コーカサス山脈を中心に国土の大部分が山岳地帯であるジョージアの美しい景色がこの作品にはあふれています。独特の長回しで撮られたシーンはそんなジョージアの美しい自然を存分に味わうことができる一方で、そこに存在している人間の不安や恐怖も映し出しているように見えます。

このジョージアという国では、大半の人が正教会の信仰を有している中で、本作の主人公のヤナは夫が指導者である「エホバの証人」を信仰しています。そんな「エホバの証人」の教会シーンから始まり、その教会は火炎瓶が投げ込まれて燃え上がります。夫のサポートをし、宗教グループにも積極的にかかわり、子育てにも熱心に取り組む彼女ですが、雄大な景色の中にたたずむ彼女はどこか狭い場所に押し込まれたような息詰まりを感じさせます。そして彼女に起こる悲劇。彼女のその後の選択とラストシーンについては誰かと感想を話し合いたくなる作品です。

>>【「BEGINNING ビギニング」を今すぐ見る!】


「マンタレイ」
「マンタレイ」

■「マンタレイ

2018年製作/105分/タイ・フランス・中国合作

【作品概要】
 ミャンマーからのロヒンギャ難民問題を描いた寓話的ヒューマンドラマ。気づかないうちにいつの間にか主人公の日常を侵食していく“不思議”な男の存在に注目。プッティポン・アルンペンの監督デビュー作で、第75回ベネチア国際映画祭オリゾンティ部門で最優秀作品賞にあたるホライゾン賞を受賞。

▼見どころ 岡田寛司

「行く場所がないなら ここにいてもいい」。このセリフが全編を通じて“効いてくる”不思議な物語です。ベースとなったのは、多数のロヒンギャ難民がタイへの入国を拒否され、行方不明になったという事件。だからこそ「ここにいてもいい」という言葉がグサッと刺さり、その場を「去る瞬間」に心を揺さぶられるんです。

特に“光”のイメージがめちゃくちゃ面白い。登場人物の顔を彩る照明、鬱蒼とした森&人工的なLEDの光という特異な組み合わせ……。「未知の者との共生」というストーリーはもとより、この独創的な表現はぜひご覧になっていただきたいです。

ちなみにタイトル「マンタレイ」は、日本名「オニイトマキエイ」という巨大エイの一種(本編にも登場します)。これには監督のこんな体験が反映されているそう。「ダイビング中、マンタレイに遭遇→未知の存在だったため恐怖を感じた→でも、実はとても人懐っこい生き物だったと知る」。納得のタイトル。“未知のもの”って、本質の何倍も誇張&肥大化して見えたりするものなんですよね……この経緯を知った上で鑑賞してみるとより楽しめると思います。

>>【「マンタレイ」を今すぐ見る!】


「スウェット」
「スウェット」

■「スウェット

2020年製作/106分/ポーランド・スウェーデン合作

【作品概要】
 カリスマ的インフルエンサーが抱える葛藤や孤独に満ちた3日間を描き出す、スウェーデンのマグヌス・フォン・ホーン監督による心理ドラマ。SNSに居場所を求めるあまり、自分らしさを見失い振る舞いがおかしくなっていく女性の“狂気”を描く。第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション作品。

▼見どころ 飛松優歩

SNSの普及で、一部の選ばれしスーパースターだけではなく、ふとしたことで、誰しもが有名になる可能性がある時代。主人公のシルヴィアは、60万人ものフォロワーに愛されるも、孤独な夜を過ごし、彼女のそばには誰もいない。生活の全てをフォロワーに見せているのに、ふと涙を見せただけで、「明るく前向きなシルヴィア」を求める契約企業からクレームが入る。そんなインフルエンサーならではの苦悩や孤独、それでも抑えられない承認欲求が、彼女のアップショットの多用で、執拗にあぶり出されています。

ポジティブでキラキラした感情だけで塗り固められたSNSには、絶対にネガティブな要素を映り込ませてはならない。泣き叫びながら、そんな虚像をせっせと作り上げるインフルエンサーと、それを現実だと妄信するフォロワーの見る“夢”には、終わりがありません。彼女は、自分自身を見失いながらも現実と向き合おうとした3日間を経て、どんな居場所を選ぶのか。強烈に胸に焼きつくラストカットを、是非見届けてください。

>>【「スウェット」を今すぐ見る!】


「荘園の貴族たち」
「荘園の貴族たち」

■「荘園の貴族たち

2020年製作/201分/
ルーマニア・セルビア・スイス・スウェーデン・ボスニア・ヘルツェゴビナ・北マケドニア合作

【作品概要】
 「ラザレスク氏の最期」などで国際的に高く評価されるルーマニア出身のクリスティ・プイウ監督が、19世紀ロシアの哲学者ウラジーミル・ソロビヨフの著作「三つの会話 戦争・平和・終末」を映像化した。ヨーロッパ貴族たちの哲学談議、知的好奇心を刺激する3時間20分の会話劇。第70回ベルリン国際映画祭「エンカウンターズ」部門で最優秀監督賞を受賞。

▼見どころ 今田カミーユ

19世紀末のヨーロッパの貴族たちが戦争、宗教、哲学に関する会話を論理的に積み上げていく物語です。日本人にはもっともなじみの薄い文化かもしれません。鑑賞前の予備知識として、当時のロシアを含め、ヨーロッパの貴族はフランス語を使っていたという前提があります。ですので、3時間20分の会話劇の8割以上はフランス語で、明瞭なフランス語の長ゼリフが続きます。登場するそれぞれの俳優の国籍がわからないため、彼女たちの母国語でなかったらものすごい苦労をしただろう…と余計な心配をしましたが、キャストのみなさんはフランスの舞台などで活躍されている方々のようです。

ヨーロッパの歴史、文化に対するある程度の知識があればより楽しめますが、なくてもご心配には及びません。演劇的な演出による室内劇なので、限定的な動きの中で展開する絵画的な構図の映像、美術や衣装が美しく、視覚的な喜びがありますし、第1チャプター開始からの驚くべき長回しに引き込まれたら、もうこの長い物語の終わりまで没入できることでしょう。難しい専門用語は少ないですし、我々と異なる時代、文化に生きた、特権的な地位にある人間たちが議論という手段を用いて、どのように他者を、世界を捉えるのか……全て見終わった後に得難い感情が生まれ、知的好奇心を刺激してくれる1作です。

>>【「荘園の貴族たち」を今すぐ見る!】


海外版ポスター
海外版ポスター

シネマ映画.comでしか見られない、世界のまだ見ぬ奇妙な映画をご堪能ください。
※作品を視聴するには「映画.com ID(無料)」の登録が必要です。

>>【「世界の奇妙な映画セレクション」はこちら!】

筆者紹介

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