コラム:若林ゆり 舞台.com - 第92回

2020年11月6日更新

若林ゆり 舞台.com

レオは会計事務所で決まり切った虚しい毎日を送っていた、気弱な会計士。しかしマックスと出会って「ブロードウェイのプロデューサーになりたい」という昔の夢を思い出し、「このままじゃいけない、自分を変えたい」と勇気を出して脱サラ、一歩を踏み出す。ここにも、大野がレオに共感する部分がある。彼は昨年の夏、長く所属していた事務所を辞めてフリーとなり、英語の習得のため年末に単身、ニューヨークへと渡ったのだ。

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「僕は学生時代からずっと『いつか海外を飛び回りたい』という夢があったんです。仕事も含めて。英語が大好きだったし、絶対に勉強して英語をしゃべれるようになるって決めていました。でも、ありがたいことにデビューしてからずーっと忙しくさせていただいていて『あれ? もう30歳になるのに英語しゃべれてないな』と気づいた。それで『自分を高めることがしたい』という思いがどんどん強くなったんです。日本に固執せず視野を広げたかったし、自分の中の世界を広げたかった。最近、自分の身近な人が亡くなるという経験が多くて、考えさせられたことも大きいかな。『人生は一度きりだよね? 僕は今なぜ、この仕事をしているんだろう? なんで英語をしゃべれないんだろう? なんであれもこれもやっていないんだろう? これで明日死んだら、きっと後悔する。それなら後悔しない生き方をしよう、よし、ニューヨークに行こう!』と思ったんです」

ところが、ニューヨーク生活が始まって2カ月ほどで、新型コロナウイルスの感染が拡大。“ステイ・ホーム”を強いられる事態となってしまった。それでも大野は「最っ高に刺激的でした!」とポジティブだ。

「ニューヨークは夢を叶えようとしている人が住む場所だから『自由に生きているな』と感じることが多くて。みんな意志が強いというか、周りに流されずに自分の行きたい道を見極めて歩いている。だから『ああ、やっぱり僕も自分の人生、悔いのないよう生きていいんだな。間違っていなかったな』って背中を押された日々でした。もどかしいこともありましたけど、俳優という仕事から離れてゆっくりできる時間、自分を見つめ直す時間が持てたのはよかったです。英語学校もオンライン授業はずーっとありましたし、通学時間がなくなった分、勉強がはかどりました」

滞在中は「BLACK LIVES MATTER」のデモに参加するなど、日本にいたら考えもしなかったいろいろなことを考えさせられたという。英語以外で得たもの、成長できたと思えるところは?

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「『世界は広いな』って実感できたし『どこに行っても生きていけるな』という実感を得ることができました。今までは『英語をしゃべりたいのにしゃべれない』というストレスが自信のなさにつながっていたので、しゃべれるようになったことは大きいですね。しゃべれれば海外のどこにだって行ける、仕事もできるし、少なくとも生きてはいける。それが自信になったと思います。レオも会計士として、すごく狭い世界で生きていた人間。日本でも学校だとか職場、いじめの問題もあるし、狭いところで悩んでいる人は多いと思うんです。でも、『世界は広いよ!』ってわかれば、狭いところから飛び出して楽になれるかもしれない。『あんなに悩んでいたアレは何だったんだろう?』って思うかも。まあレオはそれで失敗しているから説得力はないかもしれないけど(笑)、最終的にはハッピーになれますからね!」

レオは「I Wanna Be a Producer」(「プロデューサーになりたい」と歌う劇中のナンバー)という夢を抱いていたわけだが、大野にとって「Producer」の代わりに入るのは?

「『I Wanna Be an Entertainer』です! 僕自身、笑いが大好きですし、人々に笑顔を届けられる、元気を届けられる人間でいたいという思いがいつもあって。俳優というのはそれができる職業ですから、もっともっと、いろんな人を楽しませたいというのが僕の大きな目標です。ニューヨークではコロナの影響で劇場の幕が閉まってしまいましたが、映像でエンタテインメントを楽しむことができなかったら僕もきっと乗り切れなかったと思うんです。だから『エンタテインメントって本当に力をくれるものだなぁ』と身をもって実感しました。『必要ないものだ』なんて言う人もいますけど、こういう時にこそ『なくてはならないものだ』ってすごく思ったんです。だから今、コロナで大変な思いをしているみなさんに笑っていただいて、少しでも元気を与えられたらな、と思っています」

ミュージカル「プロデューサーズ」は20年11月9日~12月6日、東京・東急シアターオーブで上演。詳しい情報は公式サイト(https://www.tohostage.com/producers/)で確認できる。

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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