コラム:若林ゆり 舞台.com - 第29回

2015年7月10日更新

若林ゆり 舞台.com

第29回:あふれる感情を歌に乗せて圧倒、「サンセット大通り」の安蘭けいノーマに震える!

さらに、安蘭は映画のノーマについてこう続ける。

グロリア・スワンソンさんはご本人が元サイレント映画の大スターで、実際にノーマと重なるような経験とかもあったそうなので、やはりリアルに伝わってくるものがありますよね。あの当時、本当にこんな人たちがいて、こんな事件があったんじゃないかって思えるくらい。彼女の眼力とか、悲哀を感じさせるところとかはすごいと思いましたし、この人がやるからあのノーマができるんだな、って感じました。グロリアさんが演じるノーマのかわいらしくて、でもプライドがやたら高くて、最後にはついに狂ってしまうところなどを見ると、この人にしかできないノーマなんだろうな、と思うんです」

いやいや、眼力では安蘭もけっして負けてはいないと思うが。では、安蘭にしかできないノーマとは?

「私がノーマと重なるのは、私が宝塚のトップを経験した、というところだと思うんですよ。ハリウッドでトップの映画スターだったノーマとは次元が違うかもしれませんけど(笑)、1つの世界で頂点に君臨していたという時代があって。極めたところがあるという自負とかオーラとか、そういうものが私にはあるんじゃないかなと。そこは私にしかない部分だと思うんです。それからノーマのかわいらしいところと、いつまでも少女のように生きていたい、というか、そう生きざるを得なかった痛さや哀しさというのが、私のノーマ像かなと思っています」

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今回は、異なる解釈でノーマを生きる濱田(ジョー役は柿澤勇人)との競演もお楽しみだ。本当に受ける印象がまったく違うので観比べるのも一興。きっと観たら、もう一方のキャストでも観たくなること間違いなしなのだ。稽古場で別の人間が演じるノーマを見て、刺激を受けたり新しい発見をしたということはあったのだろうか。

「最初は私も、めぐちゃん(濱田)のノーマを見て発見できるかなと思ったんですけど、(演出の鈴木)裕美さんから『2人のノーマはまったく違うものだから、お互いの芝居は見ないで。ダメ出しも聞かないで』って言われて。たぶん裕美さんがそれぞれに求めるものが違うからなんでしょうね。だからまだ、めぐちゃんのノーマは一部分しか見ていないんです。でも、ちょっと見たときに発見したことはあったかな。私は稽古を始めたころ、ノーマのかわいらしいところとか、人間的なところ、誰もが『ああ、こんなことってあるな』と共感してもらえるような部分を意識して作っていたんですね。でも、めぐちゃんのノーマは異次元に生きている雰囲気があって、『あ、この人、狂ってるんだ』と感じられた。ノーマのそういうところや力強さを、私は忘れてたな、と気づかされました」

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この公演の後は、これまでにコンサート形式で2度上演し、好評を博した「CHESS THE MUSICAL」を、いよいよミュージカルとして日本初演。ミュージカル・ナンバーに感情を乗せるのが抜群にうまい彼女だけに、きっとコンサート版以上にエキサイティングな舞台になるだろう。

「ミュージカルっていうのは感情を歌で伝えるもので、歌を聴かせるというものじゃない。だから私は芝居と歌を別にしたくなくて。ちゃんと感情と歌がリンクして、いつも合体できるようにしたいし、歌を歌っていると思われたくないんですね。セリフを歌っていると、歌で心を伝えていると言われるミュージカル俳優になりたい。それが私の夢なんです」

サンセット大通り」は7月20日まで赤坂ACTシアターで上演中。7月25日、26日に名古屋・愛知県芸術劇場で、7月31日~8月2日に大阪・シアターBRAVA!で上演。

詳しい情報は公式HPへ。http://hpot.jp/stage/sunset

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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