コラム:若林ゆり 舞台.com - 第13回

2014年8月8日更新

若林ゆり 舞台.com

第13回その2:蜷川オールメール・シリーズを支える女より可憐なジュリエット、月川悠貴が明かす娘役の秘訣

蜷川幸雄が2004年からスタートした「シェイクスピア・シリーズ」中のオールメール・シリーズは、彼なくしてあり得なかった企画だ。シェイクスピアの時代と同じように、男だけで演じる。そうなると当然、女性の役を美しく演じられる役者が絶対に必要。それが、月川悠貴だった。今回、新シリーズで「ロミオとジュリエット」のジュリエットを演じる月川悠貴は、オールメールを支えている異色の“娘役”なのだ。

10年前に蜷川演出で上演された「ロミオとジュリエット」では、パリス伯爵を演じたという月川。そのせいもあって今回は、「ジュリエットに不純なものを感じた」と言う。ロミオ役の菅田将暉と、申し合わせてもいないのに同じようなことを考えていたそうなのだ。

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「偶然なんですけど、言っていることが似ているんですよ。だから、やりやすいですよね。僕がジュリエットに不純さを感じるのは、パリス伯爵と婚約しているのに、ロミオに恋してしまうところ。二股というか、不倫というか。純粋な恋ではないなと思うんです。ジュリエットはまだ14歳になるかならないかですけど、当時のことを考えると、その年齢で結婚して子どもを産みなさいと言われていますよね。それが一般的だったんです。ということは、14歳は子どもじゃない。そうなると考え方も大人っぽくしていかなきゃいけない。両家の確執もきちんと認識して、親が決めた婚約者がいるということも認識して、その上でロミオを愛さなきゃいけないんですね。好きな台詞で言えば、『まだ死ぬ力だけは残っている』。本当にロミオのことを愛していなかったら言えない台詞ですよね」

ロミオの菅田は、どう映っている?

「すごく柔軟な俳優さんだなって。型にとらわれないというか。いままでのロミオ像というのは繊細に描かれていることが多かったじゃないですか。でも、彼はすごくぶっちゃけている。自分の思うままに表現して、それが通っているんですね。彼のロミオは恋して滑稽に見えるところもあるんですけど、その方が悲しみが倍増するのかなって思います」

稽古場では声を荒げることもある蜷川も、月川にはまるでレディに対するように接している。

「僕は、厳しいことを言われたことはないんです。蜷川さんは、人を見てダメ出しの仕方を変えるんですね。人前でガーッと言って、恥をかかせた方が必死になる人には容赦なく言う。でも僕は人前でガーッと言われると、しゅんとなっちゃう。萎縮しちゃうんです。だから何かダメ出しとかがあるときは、蜷川さんは近くに寄ってきて、耳元でちっちゃい声で言うんですよ。それも愛情ですね」

7歳で役者を始め、14歳で蜷川に出会ったという月川。途中、本気で演歌歌手を目指したこともあったが役者に戻り、初めて女性を演じたのは2001年の「近松心中物語~それは恋」。九重太夫という花魁の役だった。

「この作品では、娘役は僕ひとりだったんです。女優さんもたくさん出ていらして。だったら女性でいいじゃない、と思うでしょう? でもそのとき蜷川さんが言ったのは、『女性だと成立しない。“神の領域”に行ってくれ』と。『そうするには男性じゃないと無理だ』ということなんです」

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“神の領域”とは! なんという高いハードルだろう。しかし華奢な体、細い声、やわらかい仕草。月川の娘役は確かに、性を超越した存在だ。

「娘役って特殊な存在で。まあ僕、男ですよね。男の人が女性のしゃべり方をそのまましたら、オカマになってしまう。動きにしても、メイクにしても、同じこと。娘役は娘役の話し方だったり動き方というのがあるんです」

歌舞伎の女形や宝塚の男役は継承される芸だが、月川は独自の娘役を、どうやって習得したのか?

「女性を観察をして、美しくないなと思う仕草や動きを自分の中から省いていく。人間って生まれたときは無垢な状態で、でも成長していく段階でいろいろな垢がつくじゃないですか。その垢を全部取り除いて無垢にしたところに、役に必要な可憐さだったりかわいさ、気の強さを付け加える感じですね。そうすると基本、美しいかと。娘役のいちばんたいへんなところは、女優さんを超えなきゃいけないところ。男性から女性になって、女性から女優になり、女優から娘役になる。たいへんなんですけど、やりがいもあります。宝塚の男役は、表現者として真逆のことをしているということなので、シンパシーは感じますね」

今回のジュリエットは、月川悠貴の“娘役”のなかでも集大成的なものになりそうだ。

「ロミオとジュリエットは、ただ一目惚れをして、恋に落ちて、死んでいきましたという、それだけの簡単なものではないと思うんですね。親の家の確執があって、いろんなものを背負いながら命懸けで恋愛する。僕も一瞬で人を好きになることはあるのでわかる気はするんですが、今回はジュリエットの背負っているものまで伝わればいいなと思っています」

NINAGAWA×SHAKESPEARE LEGEND I「ロミオとジュリエット」は8月24日まで、彩の国さいたま芸術劇場小ホールで上演中。当日券あり。
 詳しい情報は劇場の公式HPへ。
 http://www.saf.or.jp/stages/detail/1160

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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