【「アイアンクロー」評論】悲劇の羅列では終わらない “プロレス映画”というマスクを被ったエモーショナルな人間ドラマ

2024年4月7日 08:00


「アイアンクロー」
「アイアンクロー」

今日に至るまで“実話”を題材とした映画が数多く製作されてきた。その大半が「驚愕」「衝撃的」「感動」という冠が付されている。本作に相応しい冠は「衝撃的」となるのだろうが、鑑賞後、そもそもこんな思いが立ち上がる。「本当に実話なのか?」と。それほど現実離れした悲劇の連鎖が描かれていくのだが……これが紛れもない“事実”だったのだ。

“アイアンクロー=鉄の爪”を得意技としたアメリカのプロレスラー、フリッツ・フォン・エリック。本作は“父”という絶対的権力者の教えに従ってプロレスの道を選び、世界ヘビー級王者になることを宿命づけられた兄弟の姿を描き出している。物語の視点となるのは、次男のケビン。同役を演じたザック・エフロンの“肉体改造”は目を見張るものがある。だが、それ以上に受け手のエモーションを刺激する“表情”に見入ってしまった。

フォン・エリック一家は“呪われた一家”と称されている。三男デビッドの客死を契機に、まるでドミノ倒しのように感じてしまうほどの事件に直面していく(遡れば、長男も既に……)。そんなアンコントロールな連鎖を前にして、“父”の教えが重くのしかかる。それを集約するのであれば「男たるもの、強くあれ。いかなる時も泣くべからず」ということだろうか。本来であれば発散されるべき負の感情が、沈殿し、折り重なり、やがて限界を迎える――。

舞台は80年代。“男らしさ”を最大化することで輝きを放つプロレスの世界。この背景を有しながら「マチズモ(男性優位主義)からの脱却」という現代的テーマに向き合っていく点にも唸る。前述の通り、フォン・エリック一家に“泣き(=タップアウト)”は許されない。ケビンは数々の悲劇に殴打されながらも立ち続けることを余儀なくされるのだが、そんな彼が辿り着いた居場所、そこで表出させる“感情”に思わず心が揺さぶられるはずだ。

筋骨隆々のビジュアルからは想像だにしない“意外性”に充ちたストーリー。言うなれば、プロレス映画というマスクを被った極上の人間ドラマだ。そして、ショッキングな悲劇の羅列だけでは終わらない。こうでなければならない、こうすべきである――誰しもが直面したことがあるような“呪縛”の固い紐を、柔く、優しく、解きほぐしてくれる。そんな“優しさ”が観る者すらを包み込んでくれるだろう。

(岡田寛司)

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